今年一年の健康と豊作を願う富山市細入地域の伝統行事「おくわさま」が11日、同市岩稲(細入)の本芳彦弘さん(89)宅であった。昨年1月に県登録無形民俗文化財の第1号として登録されてから初めて実施。もてなし役を務めた長男の彦儀(ひこのり)さん(61)が農業の神様に見立てた鍬(くわ)に正月料理を振る舞った。

 おくわさまは「とやまの年中行事百選」の一つで、江戸時代から続く農業の仕事始めの儀式。細入地域の高齢化や人口減少に伴って風習を受け継ぐ農家が減り、現在は本芳さん宅だけが行っている。

 田んぼの神に見立てた「みつ鍬」と畑の神に見立てた「ひら鍬」を座敷の座布団に載せ、タイの塩焼きや黒豆など縁起がいいとされる料理を供えた。

 彦儀さんは、彦弘さんと母の弘子さん(89)が見守る中、家族の近況などを報告。「ゆっくり召し上がってください」と語りかけて酒を酌み交わし、畑仕事に精を出すことを誓った。

 家の前の畑で「初耕(おこ)し」も行った。土にひら鍬を入れ、東の方角に向かい手を合わせて例年育てているサトイモや野菜の豊作を願った。彦儀さんは「文化財の第1号というのは名誉なことで、これを機に地域で儀式を再開する人がいたらうれしい。自分は体が続く限り続けたい」と話した。