田嶋陽子ときけば、舌峰鋭く評論家や芸能人に迫る女性の姿をすぐに思い出すでしょう。
『わたしリセット』は、薄い新書でありながら、その半生がぎゅっと濃縮された、自伝的な一冊です。そこにはあまり知られていないフェミニズム研究による成果が垣間見られます。ここで記される人生そのものが、性差別をなくし、すべての人の平等を目指すフェミニズムを背負ったものでした。

『わたしリセット』 田嶋陽子著(文春新書、1,100円)
現代のようにフェミニズムが浸透していない時代において、田嶋陽子は代わりのきかない、かけがえのない先駆者でした。たったひとりで、女性の権利を獲得するためにおじさんたちに切り込み、社会にインパクトを与えました。
《私の人生は振り返ってみると、だいたい十年おきに転機がやってきました。私は不器用ですから、何事も全身全霊で取り組み、あるとき木の実が熟して落ちるような感じで、ポンと次に進みます》 テレビで注目を集めたかと思えば、政治家に転身する。かと思えば還暦を過ぎてシャンソンに挑戦する。激動の時代のなかで、しがらみを蹴散らしつつ、自分らしさを守るため何度も人生の方向をリセットします。その行動力と判断力のすさまじさに胸を打たれます。
そのリセットによって彼女は生き延びました。だからこそ、時代の証言者としても、現代社会の問題に対峙する論者としても活躍しています。近年、再評価の動きがあるのも納得できることでしょう。
第5章「『自分』を生きるためのフェミニズム」には、人生を何度でもリセットできるというメッセージがつづられています。彼女が生き
た歴史の重みがあり、令和を生きる若い女性にも強く響くエールです。いえ、女性だけではありません。男性の背筋も伸ばしてくれます。
あやと・ゆうき 1991年生まれ。南砺市出身。劇作家・演出家・キュイ主宰。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。