県内のクマの出没件数(目撃、痕跡)は今年1月から6月までで137件に上り、人身被害が相次いだ昨年同時期より34件も多い。昨年を上回るペースになっていることから、クマの生態に詳しい立山カルデラ砂防博物館の白石俊明主任学芸員に、備えておくべきポイントを聞いた。
夏を控えて広がる行動範囲
白石さんによると、春から夏にかけては若いクマが母グマから離れて行動範囲が広がる「分散期」に当たり、出没件数が増えるという。繁殖期にも重なっており、オスがメスを追い求めてさまようため注意が必要だ。しかも、繁殖相手を求めていないメスの中には、オスを避けるため、本来は近寄りがたい人の近くでの行動を選ぶケースもあるという。白石さんによると、有峰林道では子連れのメスが人通りの多い林道をうろうろしたり、林道沿いを選んで生活したりする習性も確認されている。

柿だけじゃない誘引物
誘引物の管理がクマ対策として広く知られているが、柿にばかり気を取られてはいけない。今の時期はスモモやサクランボ、熟れすぎた梅、桑の実などが、集落への誘引のきっかけになる恐れがある。 餌が不足する夏に、クマが緑色の柿を食べに人里に現れた事例も他の地域ではあった。熟していない果実であっても、必要がなければ落としたり伐採したりすることが必要だ。県内でも、家屋外壁と内壁の隙間にある蜂の巣、墓地の蜂の巣や供え物、納屋のニワトリの飼料、畑にまいたぬかなどが実際にクマの誘引物になっている。立山町によると、クマ出没が相次ぐ同町末谷口と上末に設置された捕獲おりには、酒かすやハチミツ、蜂の巣などが誘引物として使われているという。

鈴などの音で存在知らせる
山間部では、クマに存在を知らせることが最も重要だ。方法としては、話し声や歌声、ラジオ、熊鈴などがある。熊鈴について白石さんは「高い音で響き渡るものが、クマに認知されやすいとされる。おりんのようなものだ。携行して鳴らす行為が大切になる」と強調した。

それでも不意に遭遇した場合は「顔や頭、お腹を守ることが必要」と説明。「ヘルメットや防具代わりになるリュックサックを身に着けてほしい。とっさの防御姿勢が重要だ」と語る。クマは人の顔付近を狙ってくると言い、その一撃は言うまでもなく強烈だ。クマ撃退スプレーは有効だが、高価なため訓練などで使うのは難しい。使用方法を解説した日本クマネットのYouTubeチャンネルを見ておくといいだろう。
身近なグッズも役に立つ。タオルを首に巻いたり腰に掛けたりしておけば、万一の際に投げ捨ててクマの注意をそらしながら後ずさりしながら遠ざかることができる。
傘を持ち歩くことも対策の一つ。イノシシ対策としては普及が進んでいるそうだ。クマが向かってきたときに、傘を開くことで自分を大きく見せることができるのに加え、攻撃を傘でいなすことも可能なのだという。やむを得ず距離が近づいてしまった場合は、クマに有効とされる「突く」ための道具となる。
素早く木陰や物陰に
最近は全国的に市街地への出没が増えている。白石さんは、街で出会った際の対応について「まずは、木陰や物陰に素早く隠れることが大切」と指摘する。クマの視力はあまり良くないとみられ、隠れることで認識されることを一定程度防いでくれる可能性がある。たとえ細い木であっても遮蔽物になり、攻撃を防ぐ効果が期待できる。「クマはウサイン・ボルトよりも足が速いことを念頭に、素早く物陰に隠れたり車や室内に入ったりしてほしい」と言う。

白石さんによると、高齢化に伴って狩猟者が減ったことなどで、人を恐れるクマが減っている傾向があるという。「人間もこれまでの常識をアップデートし、行動を変えなければならない」と呼びかけた。(柵高浩)