《おそらくこれから同じようなことが、能登半島地震の被害によって起きてくるだろう。その意味で、残念ではあるがタイムリーだと思う》

 まえがきで書かれているように、いま読むことができて良かった。これから、何度も読み返す日が訪れるのではないかと予想する。ただ、そうではない現実であったほうが、より良かった。本書は、長い間、癒えることのない、悲しみに溺れた人々の再生の記録だ。心理カウンセラーとして臨床の第一線に立ち続ける著者が、社会に揺さぶられる心と向き合った思索を言葉にした。

『暴力とアディクション』 信田さよ子著(青土社、2,200円)

 そもそもアディクションは、依存症、という意味である。痛み続ける傷はしばしば、酒やギャンブルなど、逃れられない依存症へ人々を陥れる。また、家族や友人に暴力を働いてしまうといった、取り返しのつかない行動へ走らせてしまうこともある。

 能登半島地震によるこれからの影響は、想像を絶する。しかし、2024年4月に、連載を書き進めている私が感じている痛みは、目の前の現実に対しての痛みではない。もう遠い記憶にしてしまったことに対しての痛みだ。まだ半年も経っていないのに、まるで去年の出来事のように、錯覚してしまう日がある。痛みをはっきりと覚えていては、毎日をやり過ごせないからだ。

 「なかったかのように」の章で論じられているように、起きてしまった出来事は、忘れたふりをしていても、なかったことには決してできない。本書に登場するアディクションを抱える人々は、ショッキングな出来事が起きてから数年後に、みずからでは解決出来ない深刻な事態から逃れられずようやく、カウンセリングへと訪れている。

 コロナ禍に襲われた直後ではなく、後からじわじわと辛い日々が続いたように、世界が、日常が、生活が、どう変わってしまったのかを、すぐ
に認識することは難しい。心の痛みも同様に、すぐに認識することは難しい。無視できないほどの痛みを、幾年も流れてから無視出来なくなってようやく、忘却なんていまでも、していなかったと気づく。

 あなたが話を始めるために必要な、特別な誰かに、どうか、出会えますように。

あやと・ゆうき 1991年生まれ。南砺市出身。劇作家・演出家・キュイ主宰。2013年、『止まらない子供たちが轢かれてゆく』で第1回せんだい短編戯曲賞大賞を受賞。