冬の晴れた日に見える立山連峰。富山県民である幸せを実感する大パノラマだが、ふと「立山あおぐ特等席」はどこか?と疑問がわいた。担当する上市町か立山町か舟橋村か、それとも居住する富山市か。ひと口に「立山」と言っても、自治体によって〝推し〟が異なる点も興味深い。取材を進めると、「特等席」は意外な場所だった。

上市、立山、舟橋の3町村をカバーする支局長になって2年目。3000メートル級の北アルプスが間近にあり、富山市から見る風景とは「全く違う」と日々実感している。遠くから見れば「立山」とひとくくりにできても、お膝元の3町村ではそれぞれに敬意を払う山がある。
剱の上市VS立山
まずは、真っ正面に剱岳を望む上市町の成り立ちを振り返る。剱岳は古くからの山岳信仰の山だ。山頂からは平安時代のものと推定される「銅錫杖頭附鉄剣」が発見され、映画「剱岳 点の記」でも山岳信仰の歴史が描かれている。

上市町のシンボルマークは剱岳をイメージしている。マスコットキャラクターは剱岳の麓のサトイモ畑から生まれた山の妖精「つるぎくん」だ。「上市は剱」は揺るぎないものと言えるだろう。

山の名を冠する立山町は当然、立山を前面に押し出す。町章は峰を表現する三角錐が特徴となる。マスコットキャラクター「らいじぃ」がかぶる帽子も「立山三山」(雄山、大汝山、富士ノ折立)という念の入れようだ。

実は立山町からは剱岳が見える場所と見えない場所がある。地形的に山に隠れてしまうためだ。

「剱の上市VS立山」を語る上で、日本一小さな村の舟橋村を忘れてはいけない。取材を進める中で、舟橋村民からは「実は、剱岳は舟橋村からが一番よく見える」と念押しされた。
校歌が影響か
富山県民に刻まれる立山への思い。その意識には何が関係しているのか。あれこれ頭を悩ませていると、立山博物館の細木ひとみ学芸課係長が「地理的な条件に加え、日常生活とどう関わるかで立山の〝見え方〟は異なる」と興味深い話を聞かせてくれた。2020年に立山博物館が開催した特別企画展「立山があるある展」にヒントがあるらしい。早速、歴代支局長に引き継がれている冊子を開いてみた。

特別企画展は、「なぜ立山が富山のシンボルとしてしっくりくるのか」という素朴な疑問をテーマに、県内のあらゆる「立山あるある」に迫った。中でも面白いのが、「富山イコール立山」との印象は、子ども時代に歌った校歌が影響しているとの考察だ。

県内の小中学校、高校、特別支援学校336校(2019年時点)のうち、校歌に「立山」や「立山連峰」、「北アルプス」などが入る学校は64%に上った。母校の中学校は
