結婚後も戸籍上の姓を変える必要のない選択的夫婦別姓制度。6月22日に閉会した通常国会の衆院法務委員会では、28年ぶりに関連法案が審議された。ただ、野党3党がそれぞれ議員立法で提出した3法案が入り乱れる異例の展開に。自民党も推進派と反対派の対立が先鋭化するなど、党内意見の集約に難航した。「結婚時の改姓に伴う不便さの解消」との問題意識は各党ともに持ち合わせているはずだが、結論は先送りされ、秋の臨時国会で継続審議される見通し。夏の参院選を前にした「パフォーマンス」だったと見る向きもあり、国会審議の展望は全く描けない。(共同通信社会部)

熱気

 審議入り実現の下地がつくられたのは昨年10月の衆院選だった。派閥裏金問題などに揺れた自民党が大きく議席を減らし、公明党と合わせても過半数に及ばない少数与党に転じた。一方、野党第一党の立憲民主党が躍進し、衆院法務委員会の委員長ポストを獲得。過去に何度も選択的別姓法案を提出しながら、審議すらされなかった状態の解消に向け態勢を整えることができた。

 今年の法務委員会では、政府が提出した全ての法案の審議が4月下旬にめどがついた。立民はその頃から動きを加速させ、4月30日に別姓を導入する民法改正案を提出。各党も呼応するかのような動きを見せ、5月19日には日本維新の会が旧姓の通称使用を法制化する戸籍法改正案を提出した。9日後には国民民主党が立民案とはわずかに異なる民法改正案を独自提出し、野党3案が並んだ。

 さらに2日後の5月30日、四半世紀以上ぶりの審議入りという歴史的な日を迎えた。3党の提案者が順番に立ち上がり、それぞれの法案の趣旨を説明した。法務委員会の委員会室には傍聴人や報道カメラマンがずらりと並び、熱気を感じさせる中でのスタート。立民の黒岩宇洋議員は「国民の理解をさらに深めていきたい」と意気込んだ。

アイデンティティー

 内閣府によると、2023年に婚姻届を提出した夫婦のうち94・5%が夫の姓を選択している。改姓した女性がビジネスシーンや海外渡航時に同一人物と理解されなかったり、アイデンティティーの喪失感に悩まされたりする場合があるといった課題が長年指摘されてきた。

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