政治家の記者会見や街頭演説の様子を数十秒程度の動画に編集した「切り抜き動画」が存在感を増している。東京都議選を追った“切り抜き職人”の男性(39)は、時に刺激的な見出しを付けて動画を配信。「多くの人に政治との接点を提供できるのは大きなやりがいだ」と話す。

 都議選に挑んだ多くの候補も、X(旧ツイッター)やインスタグラムといった交流サイト(SNS)を通じて有権者に思いを届けた。都議選に初めて立候補した鳥海彩(とりうみ・あや)さんはその一人。選挙期間中は、SNSを積極展開することで浸透を図った。(共同通信社会部)

「政治との接点提供」 切り抜き動画が存在感

 「東京から日本の政治を変えよう」。6月19日、東京都中野区のJR中野駅前。地域政党「再生の道」の石丸伸二(いしまる・しんじ)代表がこう呼びかけると、集まった約200人から拍手が湧き起こった。聴衆の後方に陣取った男性は額の汗を拭いながら、脚立の上でカメラを器用に操っていた。

 2023年、「新しいことにチャレンジしたい」と、勤めていた会社を辞めた。同じ頃、広島県安芸高田市長だった石丸氏の会見動画を偶然見つけ、衝撃を受けた。「舌鋒(ぜっぽう)が鋭く、論理的。石丸さんのことを社会に伝えたい」

 2023年12月に自身のチャンネルを開設。経験もノウハウもなかったが、手探りで動画編集を始めた。これまでに世に放った動画は1200本を超える。

再生300万回、増えた収入と代償

 演説中にヤジを飛ばした男性を石丸氏が諭すハプニングもしっかり撮影。「アンチにアドバイスする石丸伸二」との見出しを付けて切り抜くと、再生回数は約300万回に及んだ。

 関心を集めそうなテーマが何かを熟考し、構想から制作まで一人で手がける。マーケティングや商品企画に携わった会社員時代の経験が役に立っているという。

 現在は再生回数に応じて支払われる広告収入のみで生計を立てる。所得は会社員時代の約2倍に増えたが、作業が16時間ほどに及ぶ日も。機材の購入費や交通費もばかにならないと明かす。

 再生の道は7月3日公示の参院選でも候補を擁立。撮影機材を詰め込んだ大きなかばんを手に各地を駆け巡る日々がまた始まる男性の日々がまた始まった。

SNSとリアルを循環、自らに課した選挙活動

 都議選に立候補した鳥海彩さんは5月以降、世田谷区内の駅に立ち続けた。

残り2171文字(全文:3154文字)