半熟か、固ゆでか、水からゆでるか、お湯からゆでるか。好みも調理法も千差万別なゆで卵の「完璧な調理法」をイタリア・ナポリ大などの研究チームが科学の力で突き止め、今年2月上旬に論文を国際学術誌「コミュニケーションズエンジニアリング」に発表した。100度の熱湯と30度の水に生卵を交互に計16回、2分ずつ浸すという、その名も「周期調理(periodic・cooking)」。ゆでる時間だけで計32分と手間はかかるが、一般的な調理法に比べて食感が良く、栄養価も高い至高のゆで卵が完成するという。著者らの専門はプラスチックなどの素材研究だが、同僚とのおしゃべりから約350個の卵を使う大実験に発展した。そんなにおいしいの?食べてみたい!(共同通信=鶴原なつみ)

一流シェフの「しゃれた調理法」に物申す

 卵の白身は約85度、黄身は約65度とそれぞれ固まる温度が異なる。65度で温めると、黄身は固まるが、白身は半熟のまま。白身を固めようと85度以上で温めると黄身がぱさつく。料理人にとってゆで卵は奥深く頭の痛い難題だった。

 一流のシェフは卵をわざわざ黄身と白身に分けてそれぞれ調理することもあるようだ。真空密封して60~70度に1時間以上浸す「真空調理」も料理人界隈で人気らしい。通常の調理法では得られないクリーミーな食感が得られるという。

 ナポリ大のエルネスト・ディマイオ教授が実験を思いついたきっかけは、研究者同士の「ゆで卵談義」だった。「真空調理とは、ずいぶんしゃれた調理法があるんだね」「でも複雑だし、お金もかかるらしい」「殻を割らずにそれぞれを最適な温度で調理できないものだろうか?」。議論は盛り上がった。

あっちを立てればこっちが立たず。黄身と白身の難解なバランス

 ディマイオ教授はプラスチック素材の構造分析の専門家。新材料の設計に取り組んでいる。食品はもちろん専門外だが、卵の異なる2層構造の攻略には興味がわいた。こうして素材研究エキスパート集団により研究が進み出した。

 日本人にもおなじみの「半熟卵」。沸騰した100度のお湯で6分間ゆでるとできる。だが殻に接する部分以外は温度の伝わり方がまちまちだと分かった。黄身はかなりとろみがあり、好む人も多いだろうが、水分が増す分、甘味は少ない。一方で倍の12分間ゆでるとすべての部分が均一に固まった「固ゆで卵」に。ただ黄身の粉っぽさは否めない。

 そして期待の真空調理。真空密封しない方法もあるといい、そちらを採用した。確かに独特の食感が楽しめるが、半熟卵とは逆に、白身が完全に固まらない場合がある。温度が低すぎても高すぎても、時間が短すぎても長すぎても追い求める完璧にはならない。黄身と白身のバランスを極めるにはどうすれば良いか。チームの模索は続いた。

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