「被告人を懲役〇〇年に処する」。映画やドラマで誰しも一度は耳にしたことのあるフレーズだが、いずれ聞くことがなくなるかもしれない。6月1日に施行された改正刑法は刑罰の種類から「懲役」と「禁錮」を廃止し、「拘禁刑」に統一した。この日以降に起こした事件や事故で有罪となった場合に宣告される。刑罰の種類変更は1907(明治40)年の刑法制定以来初めて。犯した罪に対する「懲らしめ」ではなく、再犯防止に軸足を置くことが特徴で、懲役と違って刑務作業が義務ではなくなり、個々の受刑者に合わせた処遇が可能となる。

 ある刑務官は明かす。「厳しい指導で『二度と刑務所に来たくない』と思わせるのが改善更生だと以前は考えていた」。現場では、法改正に先立って受刑者の呼び捨てをやめて名字の「さん」付けにした。

 かつてとは異なる対応に現場からは戸惑いの声も上がるが、ある刑務所幹部は「長期的な影響はまだ見えない部分もあるが、変革期でいろいろなことに取り組んでいる」。刑務所はどのように変わろうとしているのか。3つの施設での取り組みを取材した。(共同通信=今村未生、岩田朋宏)

1年で175回

 長期受刑者ら約300人を収容し、無期懲役がうち約4割を占める熊本刑務所(熊本市)では、北欧で行われている対話実践「リフレクティング」の手法を取り入れた。

 「ミシンのいい音がし始めると、仕事の流れが良くなるんです」。4月下旬、観葉植物が置かれた明るい部屋で、男性受刑者が刑務作業中の気づきを話していた。向き合う刑務官は熱心に耳を傾ける。「イライラがなくなり人と会話するのが楽しい」。受刑者は穏やかな表情を浮かべた。

 近くで2人の対話を見守るのは、熊本大大学院の矢原隆行教授(臨床社会学)と教育担当の職員。受刑者が一通り話し終えたところで矢原教授と職員が順に口を開いた。教授は受刑者の言葉を引用し「印象に残ったのは、いい音がするという部分だ」などと述べていき、約1時間で終了した。

 北欧の刑務所でリフレクティングを学んだ矢原教授と、熊本刑務所が協定を締結したのは昨年4月。今年3月までに、希望する受刑者に延べ175回のリフレクティングを実施した。

被害者への思い

 強盗殺人罪で無期懲役とされた20代の男性受刑者も3回経験した。

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