開戦から1年半以上が経過したパレスチナ自治区ガザの戦闘で、イスラエルでは、予備役の一部が停戦を求める書簡を公開するなど厭戦気分も起き始めている。だが、ネタニヤフ首相が掲げる「(イスラム組織)ハマス壊滅」への支持は根強く、戦闘が終結する兆しは見えない。イスラエルはさらにイランも攻撃、戦線を拡大している。1948年の建国以降、常に周囲と紛争を繰り返すイスラエル。その好戦的な姿勢の背景には、ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を巡る教育をはじめ、社会に醸成された強固な「被害者意識」や「戦いのエートス(気質)」がある。社会心理学者でテルアビブ大名誉教授ダニエル・バルタル氏はそう指摘する。イスラエル社会の集合意識についてオンラインで聞いた。(共同通信前エルサレム支局長 平野雄吾)
▽「虐殺を認めたがらない」
―ガザ地区では、5万人以上が死亡、6割以上の建物が破壊されており、「地上の地獄」(赤十字国際委員会(ICRC)のスポリアリッチ委員長)と形容される。敵対しているとは言え、多くのユダヤ人がガザの惨状に無関心なのはなぜか。
「理由はいくつかありますが、まずガザの惨状はイスラエル国内のテレビでほとんど伝えられません。ユダヤ人にとってテレビは重要な情報源ですが、イスラエルのテレビはガザの状況についてスチール写真を示すようなことはあっても、中東の衛星テレビ、アルジャジーラが流すような街の荒廃や市民が死亡する動画を流すことはほとんどありません。多くのユダヤ人はガザで実際に何が起きているのか分かっていないのです。
第2に、ガザ戦闘が2023年10月7日に発生したハマスによるイスラエル奇襲(10・7)に対する報復と結びついていることです。10・7は「新たなホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)」として社会的に演出され、今もハマス奇襲時の残虐な行為が繰り返しメディアで流される中でユダヤ人は生活しています。
さらにもう一つ理由を挙げるとすれば、『否認』です。