埼玉県八潮市の県道交差点で1月末、突然できた穴にトラックが転落した。当初、70代の男性運転手は消防隊員と話ができており、救出にはそれほど時間がかからないだろうとの見方もあった。

 しかし穴は徐々に拡大。下水道管からあふれた大量の汚水が救助を阻み、作業は長期化した。不明だった男性の遺体が見つかったのは、3カ月以上たった5月2日。男性の家族は「孫やひ孫に沢山の愛情を注ぎ、成長を楽しみにしていた。信じることも、受け止めることもできない」と悲痛な思いを抱える。

 下水道管の老朽化が原因とされる陥没は各地で年に2千件超起きている。対策はあるのか。この3カ月を記者の取材を基に振り返る。(共同通信・陥没事故取材班)

救出まで「20分以上」

 1月28日午前10時前。埼玉県八潮市の県道交差点が突然陥没した。幅は約10メートル。そこへ、ちょうど進入してきたトラックが前部から落下した。当初はトラックの荷台部分が見えた状態で、深さは数メートル程度だったとみられる。

 「救出まで20分以上」。目撃者の通報を受け、駆け付けた地元消防隊員が、そう伝えていたことが、情報公開請求で明らかになった交信記録に残っている。救出までさほど時間はかからない―との見通しが読み取れる。

 陥没直後に現場で取材した記者や、取材を指示するデスクも、当初は各地で頻繁に起きている陥没事案の一つだと考えていたのは否めない。

 陥没は県道の地下約10メートルにある下水道管が壊れ、周囲の土砂が下水に押し流されて地中に空洞ができたことが原因とみられる。

ワイヤ切れる

 フェーズが変わったのは、事故から10時間余りがたった28日午後8時半ごろだ。現場では地元住民が不安そうに見つめる中、地元消防が作業を始めるので離れてくださいという趣旨の呼びかけが行われた。

 消防は救出に向け、まずはトラックの荷台部分と運転席部分を切り離した。その後、荷台部分をワイヤでつるし、民間から調達した大型クレーンでつり上げようとしていた。

 「ドーン」

 記者は突然、地鳴りのようなごう音が響くのを聞いた。ワイヤが突然切れ、荷台部分が穴に再び落下してしまったのだ。

 午後9時ごろには、3台目のクレーンが到着。日付が変わり翌29日午前1時過ぎ、ようやく荷台部分が地上に姿を見せた。

 だがその直後。

 「ガッシャーン」という大きな音が聞こえ、近くの飲食店の巨大な看板が電柱とともに、新たに出現した穴に吸い込まれるように倒壊。明らかに想定外の事態が起きている様子だった。

 「ガス管が破損する可能性がある」「避難して下さい!」

 午前2時ごろ、パトカーが緊迫した様子で、住民に避難を呼び掛けた。取材をしていた多くの記者やカメラマンも、カメラや三脚を抱え、急いで現場から離れた。

下水自粛120万人

 原因となった下水道管は直径約4・7メートルで、全国有数の大きさだった。事故後も家庭などから出た大量の下水が穴に流入し続け、救出活動を困難にした。

残り2889文字(全文:4115文字)