「生まれつき右耳がほとんど聞こえません。自覚がないまま生活してきたので、このまま生きていくんだろうなあと」
光本一貴さん(28)は2歳の頃、話しかけても反応がないことに親が気づき、病院に連れて行かれた。そこで、右耳の内部に三つあるはずの耳小骨が1つしかないと分かった。
日常生活では「ちょっとしたハンディキャップ」があるという。右側から話しかけられると聞き取れない。聞こえる左耳を下にして寝たら、目覚まし時計の音に気づかなかったこともあった。
光本さんのように片方の耳は正常な聴力だが、もう一方は聞こえないか聞こえにくい「片耳難聴」の人は日本に30万人以上いるとされる。普段の会話は問題ないが、特定の場面で聞こえづらい。では、どんな状況で困るのか、どういった配慮がありがたいのか。右耳難聴当事者の記者が取材した。(共同通信=赤坂知美)
▽原因もとらえ方もさまざま
光本さんが経験を話したのは、3月に東京で開催された、片耳難聴者のコミュニケーション方法について学ぶ講演会の場だ。主催したのは当事者らで作る市民団体「きこいろ」で、この症状について情報発信している。
ここでは、後天的に困難を抱えるようになった人も話を聞かせてくれた。渡辺勇一さん(67)。「仕事中、突然キーンという音が鳴り始めました。フワフワとめまいもすごくて」。突発性難聴で片耳が聞こえなくなった4年前のことを振り返る。
10日間入院し、ステロイドの点滴も打った。複数の病院を受診したが原因は不明。家のテレビの音が聞こえにくくなり、仕事の打ち合わせで大事な内容を聞き逃すこともあった。突然、こういう聞こえ方になったことで、精神的にも不安定になった。