男性は数年前からここにいる。初めはティッシュケース作りなどを通じて木工作業に慣れ、2022年12月にみこし製作班に配属された。これまでに手がけたのは約20基。270人ほどいる人たちの「あこがれの持ち場」で、今は製作班長を務める。
作業を通じて、自身の中で変わったことは?
「相手の目を見て謝るなど、小さな気遣いができるようになった」
ここは富山市にある富山刑務所。男性は詐欺事件に関わり入所した。この刑務所では更生に向けた刑務作業の一環として受刑者がみこしを作っていて、富山県のふるさと納税の返礼品にもなっている。
職員は「みこし製作は更生にうってつけの作業」と言い切る。なぜ、みこしなのか。許可を得て刑務所内を取材した。(共同通信=吉永美咲)
▽いくつもの扉の先に…0・1ミリ単位の細かな作業
富山刑務所は高い塀にぐるりと囲まれている。警備担当者が見守る正門を抜け、ロッカーに荷物を預けた後、刑務官に続いて受刑者が過ごす施設内へ。施錠された鉄扉や渡り廊下をいくつも抜けた先に、みこしを作る木工工場があった。
工場は想像以上に天井が高く、奥行きがあった。木の香りが漂う中、緑色の作業服を着た受刑者が、みこしの屋根に金づちで細長い木材を一つ一つ取り付けていた。別のガラス張りの部屋では2人の受刑者が、塗装の機械を使って屋根に色の吹き付け作業をしていた。
工場を案内してくれたのは、受刑者を指導する作業専門官の男性職員(57)だ。製品に応じた専門技術を持ち、2022年から富山刑務所で働いているという。この職員によると、みこし製作を担当するのは、木工工場に配属された受刑者の中でも、適性が認められた6人前後。「社殿」「屋根」など四つのパーツを大まかに成形した後、電動やすりやのみなどを使い0・1ミリ単位で角度や厚さを調整するなど、細かな作業が多い。
▽一つ一つの作業の重要性を伝える
そもそも富山刑務所でなぜみこしを作っているのだろう。