特殊詐欺の拠点が密集し「無法地帯」と称されたミャンマー東部のミャワディ周辺。地域を支配する武装勢力から3月中旬に取材許可を得て、詐欺拠点の集積地シュエココに入った。この町は中国系犯罪組織の収益で異様な発展を遂げたとされる。詐欺拠点だった建物の中では、中国人の男性たちが送還を待っていた。武装勢力は摘発の実績をアピールした後、意外な場所に記者を連れて行った。大規模養鶏場に巨大プールのリゾート施設…。そこで武装勢力は「町を健全化する」と猛アピールしたが、現実はいかに…。(共同通信バンコク支局=伊藤元輝)
▽新しい建物が次々と…
シュエココに到着すると、地域を実効支配するカレン族の武装勢力「国境警備隊(BGF)」の戦闘員が待ち構えていた。トヨタのトラック「ハイラックス」に乗り込み移動する。新しい車体で、ダッシュボードには米衛星インターネット接続サービス「スターリンク」の機材が据えられていた。タイ側から電波の供給は止められているが、これで衛星から簡単にネットに接続できた。BGFの資金力を感じさせる。
側道にはミャンマーの田舎町らしい質素な商店が並んでいたが、すぐに車窓の光景は変わる。新しい建物が等間隔に並ぶ団地が目に飛び込んできた。高い建物だと15階ぐらいはあった。住居兼詐欺拠点だったという。繁華街も通った。漢字とビルマ文字を併記した看板が目立ち、飲食店やクリニック、日用品店から風俗店までが立ち並ぶ。新興チャイナタウンといった様相だ。
シュエココ中心部の詐欺拠点だった建物では、保護されて送還を持つ中国人男性たちが、たばこを吸ったり、寝転んだりして過ごしていた。10畳ぐらいの部屋が並び、そこに7~8人が押し込まれるように住んでいる。たばこの煙は共用廊下まで充満し、蒸し暑さも相まってむせ返った。
▽「要塞化」された町
シュエココはタイ北西部メソトから街並みが一望できる。タイ当局が2月にミャンマー側への送電を停止する前は、その発展ぶりを象徴するように、夜にビルのネオンがこうこうと輝いていた。タイ側の国境沿いには、この「夜景」を一望できるオープンテラスの飲食店「チャイナビュー」が営業している。
タイ当局は2月に詐欺拠点からの外国人保護を本格化させた。約半年前にあたる2024年6月、メソトからシュエココに取材に行けるかどうか検討を進めていたが、当時は難しかった。地域への出入りはBGFが厳しく管理して「要塞化」しており、そもそも犯罪組織がつくった町は危険だった。当時、ミャンマー人の男性美容師がシュエココからタイ側に来て取材に応じ、こう証言していた。
「ビルのほとんどは詐欺拠点か違法カジノだ。カラオケを併設した風俗店もあって、夜は売春婦がずらりと道に並ぶ。中国人がつくった『犯罪特区』で、地元のカレン族の武装勢力BGFが協力して警備している。彼らは詐欺収益から分け前をもらっているんだ。日本人、特にジャーナリストなんて絶対こっちに来てはいけない。殺されるかもしれない」