「未来社会の実験場」と位置付けられる大阪・関西万博が4月13日に開幕する。何かと比較されることが多い、1970年に開かれた大阪万博でも、「当時にとっての未来社会」を感じさせる多彩なアイデアが披露された。缶コーヒーやカプセルホテルなど、55年前の万博を契機に世に広まった商品や技術の軌跡と今から、大阪・関西万博の可能性を探る。(共同通信=広根結樹)
▽瓶の時代に缶コーヒー、なじみなく「邪道だ」と逆風も
1970年大阪万博直前の69年、上島珈琲(現UCCキャピタル、神戸市)は世界初の缶コーヒーを発売した。コーヒーは「喫茶店で飲む高級品」で、食後は日本茶という時代。「コーヒーを多くの人の手に」との思いは万博をきっかけに爆発的ヒットを生んだ。人気は日本から世界へ広がり今も革新が続く。
瓶入りコーヒーが一般的だった当時、創業者の上島忠雄(うえしま・ただお)氏は電車が到着すると飲みかけでも駅の売店に瓶を返却せざるを得ないのが心残りだった。「缶ならいつでもどこでも飲める」と思いつき、開発に着手。ミルクとコーヒーが分離したり、缶の成分でコーヒーが黒に変色したりし、試行錯誤を重ねて初代のミルクコーヒーを完成させた。
だが苦難は続いた。駅の売店や駄菓子屋に置いてもらおうと営業したが、なじみのない商品は「邪道だ」と突き返された。コーヒー豆を卸していた得意先の喫茶店からは「こんなものを持って来ても売れない」とクレームを受けた。
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