2024年元日の能登半島地震と9月の豪雨は、能登半島の農家や畜産業者に直接的な打撃を与え、避難による働き手不足も深刻となっている。国や石川県などは農地復旧や畜舎の再建費用の約9割を補助するといった支援策を用意するが、対象外の被害も多い。農業者らからは、再建に向けた道筋を早期に示すよう行政に求める声が相次ぐ。なりわい再建は道半ばだ。(共同通信=佐藤仁紀、平川裕己、江浜丈裕、磯田伊織)

田んぼに水が引けない

 輪島市の農業法人「川原農産」では水路の破損などにより、管理する約35ヘクタールの田んぼの約9割に水が引けなくなった。元々いた従業員らは生活拠点を県内外に移し、一部は新たななりわいを探し始めた。営農は継続したが、人手不足の中で水稲管理は難しく、収穫量は例年を大幅に下回る。

 代表の川原伸章(かわら・のぶあき)さん(47)は「人が足りないため、外から支援に来る人が寝泊まりできる環境を整備してほしい」と求める。農地の被害は豪雨で拡大し、全容は見えず、今年の田植えの計画も立てられない。「行政には、どこの田んぼが使えるようになるのか、いつ復旧できるのかを示してほしい」

 県や農林水産省の昨年11月時点のまとめでは、被害を確認した農地や農業用施設は7千カ所以上。豪雨でも多くが被災し、県の担当者は「地震で手をつけた復旧事業が豪雨でリセットされた」と話す。県などは11月末、復旧を支援する「奥能登営農復旧・復興センター」を設置。現地調査で農家ごとに営農が再開できる時期を示し、復旧計画を立案するとしている。

支援対象から漏れる被害

 畜産業者の被害も深刻で、県によると、元日の地震では畜舎などの施設損壊が60件以上確認されている。

 県内最大規模の約千頭の能登牛を飼育する能登町の「能登牧場」は四つの牛舎全てが半壊か準半壊と認定された。うち半壊となった牛舎の再建費用の9割は国などが支援するが、敷地内の壊れた道路舗装などは支援の対象外だ。施設全体の復旧に向け約2億円の自己負担を余儀なくされた。牧場主の平林将(ひらばやし・まさる)さん(41)は「前例や法律にとらわれない実態に合った支援をお願いしたい」と強調した。

「漁に出られることが第一歩」

 地震により、石川県輪島、珠洲両市などの多くの漁港では海底隆起や護岸損傷が確認された。漁は各地で順次再開されたが、県によると、北部主要港の2024年9月までの漁獲量は対前年比56%にとどまる。

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