能登半島有数の観光地である石川県七尾市の和倉温泉。昨年の元日に起きた地震から1年以上が過ぎた今も観光客の受け入れを再開できた旅館は4軒と、全21軒の2割弱にとどまる。建物修理だけでなく防火設備の復旧も必要で、休業中に従業員が流出するのではないかと懸念の声も上がる。温泉街の再興には長い時間がかかる見込みだ。

 能登半島の基幹産業である農林水産業や、輪島塗などの伝統産業は、震度7を観測した能登半島地震で大きな被害を受けた。9月の記録的豪雨も追い打ちとなり、地元の信用金庫が取引先の中小企業などに行った調査によると、3割近くが廃業を決めた。営業を再開しても被災前の稼ぎに届かない事業者も多く、なりわい再建は道半ばだ。(共同通信=平井森人、山田祐太、川口巧、磯田伊織)

閑散とした温泉街、改修できず手つかずの建物も

 昨年末に和倉温泉周辺を訪れると、一部の飲食店は営業を再開し、お昼時は混み合う店舗も。だが、温泉街を歩くのは地元住民数人で、観光客の姿は見られなかった。大手が経営する旅館は大規模な改修工事が進む一方、手つかずの建物も目立つ。和倉温泉旅館協同組合によると、営業を再開した4軒のほか、8軒が公費解体などに携わる工事業者を受け入れているが、本来の収入には程遠い。

 外見上は大きな損傷が見られない旅館も、建物が傾いたり、スプリンクラーなどの防火設備が壊れたりした。観光客の受け入れには消防法などで定められた防火設備の基準を満たす必要がある。

 組合の平野正樹(ひらの・まさき)事務局課長(48)は「(温泉街の)再建には、2年も3年もかかる状態」と説明。組合は補助金などの情報を各旅館に提供するが「再建自体は旅館ごとに進めてもらうしかない。僕らは道筋を示すことだけしかできない」と歯がゆい思いを吐露した。

流出が懸念される従業員、スキル維持のため“留学”も

 各旅館が強く懸念するのが従業員の流出だ。「新しい場所に定着したら、もう戻ってこないだろう」(平野事務局課長)。温泉旅館はきめ細やかなサービスや洗練された接客も重要な要素だ。新たに従業員を雇うにも作法を身に付ける研修期間が必要で、すぐには務まらない。

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