大相撲の元横綱北の富士勝昭さん(本名竹沢勝昭)が2024年11月に82歳で亡くなってから、初めての春が訪れた。優勝10回の名横綱にして、千代の富士と北勝海の両横綱を育てた名伯楽、そして誰もが認める名解説者。晩年には自ら「一粒で3度おいしい人生」と笑った。多芸多才の生涯で、四半世紀にわたって活躍した「解説者・北の富士」を改めて掘り下げてみた。(共同通信=田井弘幸)

 ▽絶妙な話術、あふれ出る逸話

 北の富士さんは日本相撲協会を定年より10年も早く、55歳で退職した。約1カ月半後の1998年春場所からNHK専属解説者に転身。関係者によると、協会を去る前に話が決まっていたのではなく、絶妙な話術を知っていたNHKサイドが退職直後に要請した。以来、体調不良による長期離脱が始まる2023年春場所まで、辛口にユーモア、優しさに粋、昔話に博学と、多面体のような語り口調が老若男女のファンに親しまれた。

 その存在を放送席で一層際立たせたのがNHKのアナウンサーだ。北の富士さんと数多くコンビを組み、テレビやラジオの大相撲中継を長く盛り上げてきた看板アナに故人への思慕を聞くと、逸話があふれ出てきた。

 ▽藤井アナが明かした上京物語は「1冊の本になる」

 元NHKアナの藤井康生さん(68)は1985年春場所から大相撲を実況し、北の富士さんとは25年間で通算300回近くも共演しているという。2人の呼吸は見事なまでにぴたりと合っていた。そこに至るには数奇な縁が交差している。

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