枯山水の庭は白砂や石で水を表現する。最も動的な要素が最も静的な素材に置き換わる。流動性や清らかさ。迂回的な表現だからこそ、水の本質的なイメージや意味を浮かび上がらせる。「日本すごい」ってあんまり言い過ぎると、視聴者にこびたバラエティー番組みたいで嫌だけど、まあすごい。枯山水が日本的なものを語る際のど定番になるのは、そりゃそうですよ。

 さて本作。一見しわくちゃの紙袋である。開口部に近いほど細かなしわが入っている。底の方にはくっきりとした折れ線が走る。誰がどう使っていたかは分からないが、人の気配と温もり、時間の流れを感じる。実はこれ磁器である。実際の紙袋を型取りして、手でクシャクシャにしたようなしわの一つ一つ、そして紙袋しか持ちえないフォルムを再現したものだ。軟らかくはなく硬い。軽くはなくて重い。

 しわやひだを意味する「Crinkle」シリーズである。作者の小松誠がろくろ掃除で使ったスポンジを遊び半分で窯に入れてみたところ、スポンジがそのまま化石のように焼きものになった。それから遊び心で雑巾や軍手を焼き、Tシャツを思いつくままに焼いた。そこから、さまざまな素材のしわを写し取ることを思い付き、本作に至ったという。

小松誠《Crinkle Series スーパーバッグ K1、K2、K3》(1975年、国立工芸館蔵) 撮影:アローアートワークス

 ありふれた紙袋にどんなしわができるか。そんなことは使用者のいい加減で無意識の行動によって偶然決まる。しかし、小松はその形の一回性を、計画的で精緻な工程を経て磁器として固定化、複製する。「偶然」が「必然」へと置き換わる。

 柔軟な紙が硬質な磁器へ。対比的な置換によって、むしろ本質的な紙らしさが際立つ。磁器の冷たいてざわりが、紙の温もりを意識させる。70年代に生まれたシリーズだが、今も新しい。遊び心を出発点に大真面目に他愛もない紙袋の質感に向き合ったからこそ、生まれたユーモアがある。(田尻秀幸)
 

反復と偶然展
会  場:国立工芸館
会  期:開催中〜2月24日
休館日:    月曜日(ただし2月24日は開館)
開館時間:午前9時30分-午後5時30分
    ※入館時間は閉館30分前まで
料  金:一般 300円/大学生 150円 
     高校生以下、18歳未満、65歳以上、
    障害者手帳をお持ちの方と付添者(1名)は無料
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)