プーチン大統領率いる軍事大国ロシアがウクライナに全面侵略を始めてから千日を超えた。継続か終戦か、戦争は分岐点にある。2024年12月1日、国家の存立を賭けてロシアに立ち向かうウクライナのゼレンスキー大統領が共同通信との単独インタビューに応じた。政権幹部は自らの国を、旧約聖書の物語で巨人ゴリアテを倒す少年ダビデに例えるが、巨人と少年の争いは第3次世界大戦に発展しかねない危うさを内包する。約1時間にわたって戦争のさまざまな側面を語り尽くしたゼレンスキー氏。発言とその背景を詳報する。(共同通信キーウ支局長 小玉原一郎)

 ▽大統領府に入るには

 首都キーウ中心部の大統領府は厳重な警備が敷かれていた。ゲートでは巨大な装甲車が威圧し、機関銃を携えた兵士らが鋭い視線を投げかける。爆発物探知犬を含む3回の保安検査を受け、携帯電話は没収された。建物のあちこちに、窓が爆発で割れないよう土嚢が積まれている。内部は照明を抑えて薄暗い。ロシアの電力インフラ攻撃で深刻化する停電を受け、政府も節電せざるを得ない。

 2階にある大会議室横のホールに通された。幾つかの巨大シャンデリアがぶら下がるが、暖房はなく、会見直前までコートを着て待った。ウクライナ国旗と、国章の三つ叉の矛をあしらった旗がセットされる。大統領は約束の午後2時から50分ほど遅れ、姿を現した。ボクシングのトレーニングで鍛えていることもあり、握手は力強かった。小柄ではあるが、がっしりした体格。黒とカーキの上下にスニーカー姿で、笑顔を交えて英語で短く挨拶した。その顔つきはインタビューが始まると一転、険しくなった。

 ▽ゼレンスキー氏の現状認識

 ―手始めに現在の戦況をどう認識しているのかと聞いた。英語の質問にゼレンスキー氏はウクライナ語で答えていく。

 「ウクライナの未来や、主権と独立が脅かされた最も厳しい時は過ぎ去ったと考えている。全面侵攻が始まった当初、多くの領土が占領されたが、後にそれらの領土を奪還した。大都市も占領の脅威にさらされ、いくつかは実際に占領された。それでも、われわれは独立国家として生きる願いを失わず、団結して大部分の領土を取り戻した。

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