3日に行われた富山マラソンでは、石川県珠洲市で元日の能登半島地震に遭った高岡市のランナーがいた。大野尚志さん(43)は、義父の中川政幸さん(76)方で被災。復興に励む中川さん夫妻を元気づけたいと、フルマラソンに初挑戦した。長距離走に目覚めたきっかけでもある珠洲を応援したい気持ちも込めて走った。目標の完走を達成し「ほっとしている」と笑みを浮かべた。
高岡市出身の大野さんは、珠洲市上戸町出身の妻、里美さん(42)と子どもの5人で暮らす。教員として長く高岡市内の中学校に勤務。今年3月に県教育委員会の出先機関である県映像センターに異動し、生涯学習向けの動画制作などに取り組んでいる。
学生時代は陸上に打ち込んだが、短距離や走り幅跳びが専門。「嫌いだった」長距離を走るようになったのは、妻の実家がある珠洲がきっかけだ。訪れるたびに美しい景色や町並みに魅了され、海岸沿いや商店街を10キロほど、ゆっくりと走るようになった。
激しい揺れに襲われた元日、中川さん方は外壁がはがれ、屋根瓦が落ち、停電と断水が起きた。倒壊する恐れがあったため、大野さん一家は車に布団と毛布を持ち込み、エンジンを掛けず一夜を過ごした。「悲しんでいる余裕もなかった」と振り返る。中川さん方は後日、「中規模半壊」の判定を受け、10月に公費解体された。
仮設住宅に入った中川さん夫妻は、9月には記録的豪雨に見舞われた。何度も心に傷を負いながらも、地域の復興のため、町の区長として懸命に動いている。大野さんは「自分の走りで元気を届けたい」との思いでレースに臨んだ。
本番では、高岡市内の沿道で応援する里美さんや中川さんと笑顔でハイタッチを交わし、両脚をつりながらも、5時間17分18秒でゴール。里美さんらに「頑張ったね」とねぎらわれた。中川さんは「感動した。復興へのエネルギーをもらった」と喜んだ。
中川さんは、自宅跡地に再び新居を構える計画を立てている。大野さんは「前向きに頑張るお義父さんたちを、心の面で支えたい」と話した。(西村勇輝)