どれだけ便利な道具でも、日常生活の中でずっと使うことはない。大抵のものは、機能を果たさない時間の方が長い。照明がその良い例だ。昼間の家庭ではともすことはない。日が暮れて明かりをつけても、寝る前には消す。
椅子もそうだ。同じダイニングチェアに身を預けたまま、24時間過ごす人など滅多にいない。しかし、道具は使うだけでなく、眺めて愛おしむためのものでもある。照明も椅子も使っていない瞬間は彫刻のような存在になる。その美しさが空間に質感や彩りを与える。

『椅子』(オーストリア、19世紀初頭・静岡市立芹沢銈介美術館所蔵)
染色家として名を馳せ、人間国宝にもなった芹沢銈介が国境を超えて収集したコレクションは約5500点に上る。芹沢は収集のことを「もう一つの創造」と表現した。選ぶことはつくることだった。自宅に誰かを迎えるときは、深夜まで模様替えを行い、その人にふさわしい空間をしつらえた。
本作は芹沢が特に好んだという一脚だ。ひと目見れば、調和の美という言葉が浮かぶ。一枚板から掘り出された背もたれは、紐模様を描く。華美ではないが、確かな技術がなければできない仕事だ。
背もたれの美しさを際立たせるのが、シンプルな座面と、真っ直ぐに開いた脚だ。絶妙な組み合わせは確かな個性を感じさせるが、決して出しゃばらない。老舗ブランドのマフラーや、街一番の店のコンソメスープのように、懐かしくも新鮮な温もりがある。
芹沢は民芸運動で各地を訪れた。目にした風物を作品のモチーフにした。この椅子のエッセンスもきっと取り入れただろう。芹沢の代表作にのれんの中に縄のれんを描いた作品がある。この背もたれの紐模様と響き合うようなデザインだ。 (田尻秀幸)
民藝 MINGEI—美は暮らしのなかにある
会 場:富山県美術館
会 期:開催中〜2024年9月23日(月・休)
開館時間:9:30〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:毎週水曜日、9月17日(火)
料 金:一般:1,300円(1,000円)、大学生:650円(500円)、
高校生以下無料。
( )内は20名以上の団体料金
問い合わせ: TEL 076-431-2711
会 場:富山県美術館
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