ネオン街という言葉を聞くと、華やかさと同時にどこか切ない感じがする。盛り場ならではの刹那的な印象が影響しているのかもしれない。

 もしかしたら、こんな理由も関係しているのだろうか。旧来のガラスのネオンライトは高度な職人技を必要とする。だから安価なLEDネオンに取って代わられつつあるという。記憶の中の繁華街の輝きや彩りの質感は、いつの間にか懐かしいものになっているのかもしれない。

 そのガラスのネオンライトが本作では郷愁を誘うように輝く。本作の制作過程は込み入っている。さまざまな筆跡の「I am」(私は)という一節をネオン管でなぞるように職人が再現。さらにアーティストの横山奈美がそれらをモチーフにして古典技法で忠実に描いた。つまり、二次元の文字をネオン管で三次元化して、さらに二次元の平面作品に絵筆でアナログ変換する。なんて、ややこしい!

 コンセプチュアルな作品だが、写実性に目を見張る。画面の奥に視線を向ければ、ネオン管を支えるフレームや配線の存在に気付くだろう。実物を見ても写真のようだが、目を凝らせば、筆が走った跡や絵の具のかすかな盛り上がりもある。

 コラージュされたそれぞれの「I am」が味わい深い。どれも似ていない。そもそもの文字は、横山が昨年インドに滞在した際に出会った人たちに書いてもらったものだという。

横山奈美《Shape of Your Words [in India 2023/8.1-8.19]》(2024年、個人蔵) ケンジタキギャラリー © Nami Yokoyama photo : ITO Tetuso

 文字は人だ。一つの画面の中に収まる複数の「私」。それぞれ確かな痕跡を保ちながら、全く別の形に変質して共鳴する。作家の旅の出会いが凝縮されたものと言ってもいい。

 本作を目の前にすると、「私」という存在の成り立ちに思いを至らせずにはいられない。日々の暮らしの中で、さまざまな人生が交錯する。背中合わせだったり、すれ違ったり。かすかなつながりしかなくても、「私」たちは影響し合っている。

 人は1人であっても、1人ではない。優しく明るい「私」たちで満ちていると思うと、ちょっとホッとする。(田尻秀幸)

Lines(ラインズ)—意識を流れに合わせる
会  場:金沢21世紀美術館
会  期:開催中〜10月14日(月・祝)
開館時間:10:00〜18:00(金・土曜日は20:00まで)
料  金:一般 1,200円(1,000円)、大学生 800円(600円)65歳以上の方 1,000円、小中高生 400円(300円)未就学児 無料 ※本展観覧券は同時開催中の「コレクション展」との共通です
    ※( )内はWEB販売料金と団体料金(20名以上)
休館日:月曜日(8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開場)、8月13日、9月17日、9月24日
出品作家数:16組
作品数:35点
問い合わせ:金沢21世紀美術館  TEL 076-220-2800