締め切りが近づく。ワードの真っ白な画面を前にして気持ちが焦るばかりだ。これがワードではなく、雪原ならどうか。少なくとも窓の内側からであれば、銀世界に人生のあれこれを重ねて見惚れていただろう。ワードの画面の白さは寒々しいだけだが、雪の風景は美しい。冷房の効いた部屋でノートパソコンを膝にのせて、そんなことを考えながら現実逃避している夏。

 雪という言葉と共にまず頭に浮かぶ絵画は、個人的にはこの石崎光瑤の二曲一双屏風だ。湿り気のあるどっしりとした雪が画面いっぱいに降り積もる。絵画において雪はさらりとした軽い質感で描かれることも多いが、胡粉を厚く盛った光瑤の雪には重さがある。湿っている。間違いない。これは北陸の雪だ。さすが福光育ち。

 そう思い込んでいたのだが、どうも京都・大原に取材したものらしい。雪景色の大原は確かに有名。いや、どこを描いたっていいものはいいじゃないか。

 琳派に学んだ装飾性と、傾倒した伊藤若冲のような写実的な描写と色使い、独特の空間把握が見て取れる。デザインと写実の融合が光る。

 

 右隻では、しだれる柳の枝越しに刈田が見える。それらは極端にデフォルメされているが、雪の上に遊ぶ色鮮やかなオシドリたちは細密に描かれる。一転して、左隻は杉林が舞台だ。過剰なまでに雪が枝をしならせ、木の幹を白く覆う。その中で赤く染まったツタの葉っぱが命の熱をそっと放つ。キツツキやキジバトの描き込みも細かい。

 本作は帝展無鑑査出品作。審査がないということもあって、遊び心を存分に発揮したのだろう。通常の絵絹とは異なる荒々しい風合いの下地も取り入れている。

 光瑤は本作について「雪の気持ちを表現する」という趣旨の発言を残している。花鳥の色彩と陣取りゲームを繰り広げるような雪の勢いが爽快。暑さに体力を奪われる日々の中で、寒い冬がちょっとだけ恋しくなる。(田尻秀幸)

花鳥画の極 Real&Spirit 生誕140年記念 石崎光瑤
会  場:南砺市立福光美術館
会  期:2024年7月13日(土)〜9月2日(月)
    ※8月7日から後期展。「雪」は通期で展示
料  金:一般1,000円/高大生210円
開館時間:9:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:火曜日
問い合わせ:    TEL 0763-52-7576