ため息はおおよそネガティブなものだろう。「ため息をつく」とセットで使われる紋切り型は「天を仰ぐ」や「落胆した様子だった」といったもの。それにしてもニュースを見ていると、ため息をつきたくなるような現実ばかりが流れてくる。日々あふれるため息をポジティブに活用しようとしたのが、男女2人組ユニットのキュンチョメだ。

4分半に及ぶ映像の間、メンバーの1人が青い海に漂ってみせる。胸元には赤い風船。その風船を浮き袋代わりに画面左から右へとゆっくりと流れていく。青い空には白い雲がふわり。一体何を見せられているのか分からないまま、ゆったりとした時間だけが過ぎる。
実はこの風船はため息でふくらませたものだという。アーティストは落ち込んでいたある日、「沈んでゆく気持ちを浮き上がらせたい」と風船にため息を吹き込んでみた。空に浮かぶことはできないが、海には浮かぶことができた、ということらしい。何とも爽快で、バカバカしい発想!
キュンチョメはユーモアをにじませながらも社会を鋭く批評してきた。たとえば2014年に岡本太郎賞に輝いた「まっかにながれる」は福島原発事故に視線を向けた。日本の象徴とも言えるコメを会場に敷き詰めて、踏み付けないと見られない作品を制作した。福島の痛みを嫌でも意識させるものだった。難民や沖縄の基地問題、性同一性障害を扱った作品もある。
美しい海にただただ浮かぶ本作は現実逃避などではない。いかんともしがたい社会への問題意識の延長線にある「やるせなさ」の上に成り立っているのだ。最悪の状況の中で最後にできることは祈り。ため息でふくらませた赤い風船は祈りの凝縮のようにも見える。観客は優しい気持ちになってその祈りを眺めるだろう。深く息をすってはく。そして、祈りが連鎖する。(田尻秀幸)
会場:黒部市美術館
会期:会期中〜12月17日(日)
休館日:月曜日、11月24日
開館時間:午前9時30分〜
午後4時30分
(入館は午後4時まで)
閲覧料:一般500円(400円)、
高校・大学生400円(300円)
( )内は20名様
以上の団体料金
※中学生以下無料
※障害者等手帳を
お持ちの方と付添1名無料
問い合わせ:TEL.0765-52-5011