現代に生きる我々の懊悩のすべてを押し込んだかのような、辞書に近い小説である。凄まじい量の社会問題が矢継ぎ早に押し寄せ、そのどれもが一筋縄で解決できるものではない。状況の悪化も著しく、急転直下の惨事もあちこちで起き続ける。

ここで描かれていることを一言で説明するのは難しい。しかし人々は一言で説明されたがる。そして問題を理解したみたいな顔をしたがる。そんな人々を嘲笑うかのように、実際にありそうな出来事の数々で、混乱の渦へと叩き込む。古谷田奈月は日本ファンタジーノベル大賞でデビューしている小説家で、数々のファンタジー要素をもつ過去の傑作もあるのだが、『フィールダー』にファンタジーは欠片もない。禍々しい世界。わたしたちが嫌というほど知っている、目の前のこの世界。
数あるシーンの中で印象に残ったのは、息子の自殺を巡る、巨大な、父親の癒やされるはずのない悲しみと怒りだ。父親は息子の自殺の原因をゲーム障害だと主張する。
《おたくのゲームの競争で負けてうちの息子は自殺したんだけど、過剰に競争心を煽るやり方はしていなかったと誓えますかって。人の弱さにつけ入ったりしていない、まがい物の勝利を餌に商売なんてしていない、私の目を見てそう言えますかって。聞いてみたいです。》
わたしは思わず、手元のゲーム機の電源を切った。1時間ぐらいやっただけで数千人を殺しまくるゲームに、没頭していたところだったから。違う、そうじゃない、ゲームがあるから現実に出ていけるんだ、現実だけを直視する毎日だったら、それこそ死んでしまうじゃないか。と、わたしは思わず本に反論しそうになった。が、この言葉がいまも脳内で響き続けている。忘れられなくなる。きっとあなたも、どれかの言葉がべっとりとこびりついて、離れないに違いない。みずからの弱さをきっぱりと言い当てられて、泣きたくなるに違いない。