映画館と違い、自宅で観る映画やドラマはどうしても集中力に欠けてしまう。私のように「この俳優、誰だっけ」と、ついケータイに手が伸びる人も多いだろう。そんな時は、気の緩みが引き締まるような、緊張感のあるミステリーやサスペンス作品を観ることにしている。

  「教皇選挙」は、キリスト教最大の教派・カトリック教会の最高指導者であるローマ教皇の死に伴い、密室で執り行われる教皇選出選挙(コンクラーベ)の舞台裏と内幕に迫った政治的ミステリーだ。

イラスト:kumiko yamaguchi

 ローマ教皇が死去し、ローレンス枢機卿(すうききょう)は新教皇を決めるコンクラーベを執り仕切ることになった。世界中から100人を超える枢機卿が集まり、礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで極秘の投票が始まる。票が割れ、候補者たちの差別やスキャンダルがあらわになり、中立であるローレンスは苦悩する。

 革新派のベリーニは保守派のトランブレやテデスコの躍進に焦っている。親友であるローレンスは謙虚だった彼の変貌に驚くが、自分に票が投じられたことにより「教皇にふさわしい真の候補者は誰か?」と気持ちが揺らぐ。

 ある場面の「私たちは生身の人間だ。理想に仕える者であって、理想そのものではない」という台詞がとても印象的だった。私もつい、聖職者を無私無欲な人間として観ていた。赤い聖職者服をまとった各国の枢機卿たちが煙草を吸いながらスマートフォンをのぞく姿を観て、ギョッとしてしまったからだ。

 「教会」を「会社」に、「教皇」を「社長」に置き換えると、ローレンスの行動はさながら各所に根回しをする中間管理職という風に見えてくる。観終える頃には、すっかりローレンスに親しみを感じていた。

 ドイツのピアニスト、ハウシュカが手掛ける劇伴が緊張感をかきたて、集中して観ることができる作品。「おうちでエンタメ」の初回作として、おすすめしたい。

DJ CHIGON 富山市在住。ロックDJパーティ「LOVEBUZZ」のDJ。インディーロックを中心にプレイしている。