今年4月、奈良市の帝塚山学園のグラウンドに雷が落ち、部活動中のサッカー部員ら6人の中高生が搬送された。学園は「急激な天候の変化で防ぎきれなかった」と釈明するが、サッカー部の複数の顧問が当日発表されていた雷注意報を把握しておらず、危機管理の甘さが露呈した形だ。
8月は“雷の季節”のまっただ中。真っ黒な雲が近づいたり、雷鳴が聞こえたりする場合はいつ雷が落ちてもおかしくない。異常気象が続く昨今、事故は各地で後を絶たず、学校現場は安全確保と活動の両立に頭を抱える。屋外活動は継続できるのか。対策の最前線を取材した。(共同通信=佐藤高立、伊藤光雪、古俣友理、大森瑚子)
▽現場のグラウンドでは110人以上が活動
「顧問団の話を聞く限り、彼らはやれる限りのことをやった」
帝塚山学園の事故から2日後の4月12日に開かれた記者会見。帝塚山中高の小林健校長(54)は当日の対応に問題がなかったかを問われ、言葉少なに語った。天候が急激に変化したことで事故を防ぎきれなかったとも話した。
事故は4月10日夕方に発生した。当日は午前4時半ごろから雷注意報が奈良市全域に発表。現場には他に野球部やテニス部も含め計110人以上が活動しており、落雷によりサッカー部の男子中学生5人と、野球部マネジャーの女子高校生1人の計6人が搬送された。学園によると、部活顧問がウェブ上で雨雲の動きを確認しようとした矢先に落雷があったという。
▽今までのマニュアルでは対応できない事態、現場に戸惑い
今回の事故について、学校現場には戸惑いの声が広がる。
「今までのマニュアルで対応できない事態が発生した」。そう語るのは奈良女子大付属中等教育学校(奈良市)後期課程の二田貴広副校長(52)だ。活動中止を検討しようとしたところに発生した落雷に驚きを隠さない。
これまでは稲光や雷鳴などの兆候があった際、全校放送で屋内退避を指示していたが、事故を受け対策を変更。周辺30キロ圏内で落雷が発生した際や、周辺で落雷の可能性が高まった際に教員などの携帯電話に通知するサービスを導入した。また、1時間後までの雷の激しさや落雷の可能性を予測できる気象庁の「雷ナウキャスト」も活用する。
ただ二田さんは「生徒の活動をできる限り確保しつつ、落雷対策もしなければならなくて、大変難しい」と活動と安全のバランスの取り方に頭を悩ませる。
▽自分なら事故を防げたかとの問いに…「自信がない」との声
サッカー部の顧問を30年近く務めた、奈良女子大付属中等教育学校前期課程の大内淳也副校長(58)も新たな対策を模索する。気象台職員による教員研修などを計画し「雷に対する構えが変わらなければならない」と語気を強める。