皆さま、初めまして。ピアニストの髙木竜馬と申します。
ご縁あって共同通信の「クレッシェンド!」にて、3カ月間の連載を担当させていただくことになりました。
普段“音楽”を演奏している私が、こうして“言葉”で何かをお届けするという機会をいただいたことに、新鮮な喜びであふれています。
音楽に出会ってからこれまで、さまざまな方々との出会いに支えられ、舞台の上で、そして日常の中で、音楽を通して数えきれないほどの感動に触れてきました。
今回はそんな人生の旅路で感じたことや考えたことを、できるだけ等身大のまま、素直に言葉にしてつづっていけたらと思っています。
しばしの間、お付き合いいただけましたら幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。
3カ月という限られた期間の中で、どのようなことをつづるべきか悩みましたが、大きく三つのテーマに分けてお届けする予定です。
・好きな作曲家、音楽家、曲について
・これまでの音楽人生の歩み
・現在の活動と、これからの夢
この三つの柱を軸に、毎回少しずつお話を進めていきます。
本連載を通じて、初めて私のことを知ってくださる方も多いかと思いますので、第1回は自己紹介を兼ねて、私の「好きなこと」をテーマにお届けします。
とにかく、クラシック音楽が大好きです。ピアノを始めたのは、両親の影響もあり2歳の頃からでしたが、クラシック音楽への愛情は年を重ねるごとに深まっていると感じています。私のことを知っていただくためには、このテーマが一番の近道だと思い、中でも特に心を引かれる作曲家や楽曲についてつづらせていただきます。
まず「好きな作曲家」について。
好きな作曲家は、ブルックナー、ブラームス、ドビュッシー、ラフマニノフ。尊敬する作曲家は、バッハ、モーツァルト、ベートーベンです。もちろん、ここに名前を挙げていないその他の多くの作曲家もとても好きです。
私はピアニストですが、実はオーケストラが演奏する交響曲が本当に好きで、中でもブルックナーの音楽には深く心を打たれます。
時には演奏に1時間半近くかかるような長大な交響曲を残しましたが、それがとんでもなく美しく、神々しい。聴くたびに心をつかまれて離れません。
あまりにも好きで、昨年から月刊誌「音楽の友」でブルックナーの交響曲を分析し、聴き所を紹介する「髙木竜馬のガイドで登る名峰ブルックナー」という連載を続けているほどです。「音楽の友」の公式ユーチューブで連動動画も配信しているので、見てみてください。
ブラームスは、どのジャンルにおいても深い詩情をもって語りかけてくれる存在です。
ドビュッシーは、風景を音で描く天才でした。
ラフマニノフは、全ピアニストの憧れといっても過言ではありません。史上最も技巧に優れたピアニストの一人でもあり、生み出した作品は美しさとメランコリーの極致と感じます。
そして、バッハ、モーツァルト、ベートーベンは言わずと知れた大作曲家。彼らが後世に残したものの偉大さは、言葉に尽くせません。
続いて「好きなピアニスト」について。
永遠の憧れは、ソコロフ。長く来日していないので実演に触れた方は少ないかもしれませんが、ヨーロッパ、特に鉄道で移動できる範囲では非常に活発に演奏活動をされているので、私がウィーンに住んでいた頃は何度も聴く機会に恵まれました。
彼の演奏には、全ての音に魂が宿っている。あれほど美しい音を奏でたピアニストは他に知りません。聴いていて何度、涙を流したことでしょうか。
小さい頃からのアイドルは、ホロビッツでした。特に30、40代の演奏は人間業とは思えず、ある種の神の領域に到達していたと思います。
その他にも、ギレリス、ソフロニツキー、リヒテルの演奏は指標であり続けましたし、ミケランジェリの音楽に真摯な演奏は胸を打ちます。現代のピアニストでしたら、トリフォノフの演奏からはいつも大きなときめきをもらっています。
指揮者は圧倒的にチェリビダッケが好きです。もう亡くなってしまった、いわゆる「巨匠指揮者」と呼ばれる方々に心引かれますが、その中でもチェリビダッケは私の中で別格の存在です。
それは「好きな曲」にもつながります。
チェリビダッケがミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したブルックナーの交響曲の第5番と第8番が、私の最も好きな作品です。あまりにも素晴らしいんです。その魅力は筆舌に尽くしがたい。
第5番は、第1、2、3楽章の要素が最後の第4楽章に集結し、まるでヒーローチーム「アベンジャーズ」のように総登場して壮大なクライマックスを築きます。
第8番は構築が完璧で、細部へのこだわりも尋常ではありません。第4楽章の終結部では、まさに“光が闇に打ち勝つ瞬間”を体感できます。
どちらの作品もクラシック音楽の最高到達点の一つですが、その魅力を最大限に引き出しているのがチェリビダッケです。涙なしには聴けないこの2曲、もし機会がありましたら、ぜひ耳を傾けてみてください。
ブルックナーの他にも、自分は深遠な曲に共鳴して、美しさを感じるのかもしれません。
ベートーベンの「交響曲第9番」、シューベルトの「弦楽五重奏曲」と「ピアノ・ソナタ第17番」の第2楽章、ショパンの「幻想ポロネーズ」、シューマンの「幻想曲」第3楽章、ブラームスの「7つの幻想曲集」第6番、リストの「巡礼の年」から「婚礼」、ドビュッシーの「水の反映」と「12の練習曲」第10番、「2つのロマンス(歌曲)」、リヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」、ラフマニノフの「交響的舞曲」、ショスタコービッチの「24の前奏曲とフーガ」などが、特に心に響き、染み渡る好きな曲として挙げられます。
好きなことに関してつづっていたら、気づけば結びの句を迎えることとなりました。この連載が、皆さまにとってクラシック音楽を少しでも身近に感じていただけるきっかけとなれば、これほどうれしいことはありません。
音楽に育まれ、音楽に導かれてきた人生の途中で、こうして筆を執る機会をいただきました。「音ではなく、言葉で語るクラシック音楽」─。そんなささやかな試みを、どうか温かく見守っていただけたら幸いです。
次回は、私の歩んできた音楽の道のりを、少しずつたどってみたいと思います。またこの場所でお目にかかれましたら、それが何よりの喜びです。(ピアニスト)
☆たかぎ・りょうま 1992年千葉市生まれ。グリーグ国際ピアノコンクールなど数々の国際コンクールで優勝。アニメ「ピアノの森」(NHK総合)では主人公の親友、雨宮修平の演奏を担当した。「ピアノの森」ピアノコンサートを各地で開催するなど、多彩な活動を続ける。
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「クレッシェンド!」は、若手実力派ピアニストが次々と登場して活気づく日本のクラシック音楽界を中心に、ピアノの魅力を伝える共同通信の特集企画です。