2024年度の東京大の男女比は、男性の学生が8割、女性は2割、教授は男性が9割で女性は1割だった。圧倒的に男性が多い環境で、実際に東京大に通う女子学生や教員は次のような言葉をかけられたという。

 「女子なのに東大?」「女子は研究に向いてない」

 24年、これらの言葉が記されたポスターが大学内に掲示された。仕掛け人の一人が、副学長の林香里さん。ジェンダーバイアス(性別に基づく固定観念)を可視化するプロジェクト「#言葉の逆風」の企画だ。林さんは明かす。「こういうものを外に出すと、東京大の恥なんじゃないかと思われることもある」

 その林さんが、この年の4~9月に放送されたNHK連続テレビ小説「虎に翼」の脚本家吉田恵里香さんと12月に対談した。(共同通信=松本智恵)

現在に続く女性の生きづらさ

 「虎に翼」は、女性初の弁護士・三淵嘉子さんをモデルとした主人公・猪爪寅子の生涯を通じ、ジェンダー差別解消に向けて連帯する人々の姿を描き、話題を集めた。ジェンダーにまつわるモヤモヤに疑問符を投げかける「はて?」のセリフは流行語になった。

 林さんにはプロジェクトのポスター掲示が、「東京大の恥」と思われるかもしれないとの思いもあった。でも、必要なことだと学内合意を図った。「未来の教育、研究の場を作るために。特に若い研究員たちが頑張ってくれた」と話す。

 吉田さんもポスターにあった言葉をかけられた経験が「たくさんある」という。「この中の(言葉を)1個も受けないで大人になった女性っていないのではないかと思う。それが非常に腹立たしい」と訴えた。

寅子の「私たちはすごく怒っているんです」

 ドラマでは、大学に入学した寅子が、世の女性が置かれた不合理な状況に怒りを感じながら、法律を学ぶ姿が描かれた。現在の司法試験に当たる「高等試験」合格に向けて奮闘するも、家庭の事情により勉強を断念した仲間も。寅子は2度目の挑戦で合格を果たした。

 林さんは最も印象に残ったシーンに、寅子の合格祝賀会を挙げる。優秀なご婦人と褒められた寅子は、志半ばで学びを諦めざるを得なかった女性たちのことを思いながら「自分が1番なんて、口が裂けても言えません」と反論し、「今、合格してからずっとモヤモヤとしていたものの答えが分かりました。私たちすごく怒っているんです」と続けた。

 この台詞を聞いた時、林さんは涙を流したという。弁護士として男女関係なく困っている人の力になると誓った寅子の姿に「みんなが生きやすい社会を作っていこうというメッセージ」を読み取った。

妊娠により、女性の主語が子どもになる

 現在、男の子の育児に奮闘している吉田さんが「自分を重ねた」というのは、寅子の妊娠が分かったシーンだ。

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