2024年10月、一冊の写真集が出版された。モデルは乳がんで乳房を全て取り、再建手術を受けた女性12人。その中の一人、林しずかさん(46)=仮名=は24年2月、X(旧ツイッター)でモデルを募集するという情報を見た瞬間「応募するぞ!」と決めた。
応募は80人を超えたため、オンライン面談を実施。そこでこんな質問を受けた。「親御さんはモデルに応募したことを知っていますか?」
撮影は上半身裸が条件。娘のヌード写真が本になったことを後で知ったら、親はびっくりするにちがいない。同情や好奇の目など、寄せられる反応への心配もある。そんな懸念があったからこその質問だろうが、林さんの母(73)は賛成しただけではない。娘の決断を喜んだ。
写真集のタイトルは「New Born」(赤々舎)。林さんの「かっこいい」乳房は、静かな自信に満ちた表情とともに収められている。
娘の挑戦、そして母の賛成には何があるのか―。二人の物語を聞いてみた。(共同通信=山岡文子)
▽もし自分が乳がんになったら
林さんは手術を受けるずっと前から、こう決めていた。「もし自分が乳がんになったら、乳房を再建しよう」
たいていの人は「もし乳がんになったら」と思うことはあまりないかもしれない。しかし林さんには理由があった。母も祖母も乳がんを患い、遺伝性の可能性を考えられずにはいられなかったからだ。
そんな林さんが影響を受けた出来事がある。「New Born」を企画した団体の前身となる組織が、2010年に作った同じコンセプトの写真集「いのちの乳房」を見たことだ。
乳房やおなかには傷痕。乳輪や乳頭がない人もいた。でも林さんにとって、それは問題ではなかった。みんなの凜とした姿が、ものすごくかっこよかった。「乳がんで手術をしても、こういう選択肢があるんだ」と驚き、「自分も乳がんになったときは…」と考えるようになった。