富山市のANAクラウンプラザホテル富山で25日開かれた第59回北日本文学賞の懇談会で、選者の宮本輝さんが受賞者と創作談議を交わした。入賞、選奨作について「どれも才能が感じられ、選考が難しかった」と振り返り、受賞者は実践的なアドバイスに聞き入った。
岡本佳奈さんの入賞作「月と鱧(はも)」は、40代女性の何げない日常をテーマにした作品。電球や水ナスといった印象的なモチーフをちりばめ、読み進めるうちにそれぞれのつながりが浮かび上がる巧みな構成が光った。宮本さんは「日頃から人間の表情や風景を鋭敏に見ているのが文章に表れていた。ダントツの作品だった」とたたえた。
江戸時代末期を舞台にしたつくしさんの選奨作「子供を売る男」については「北日本文学賞で時代小説が上がってくるのは極めてまれ」と説明。捨て子を育てて商店や侍屋敷に売ることをなりわいとする主人公の男が、自分の子供として育てることを決意するラストシーンに関して「厳しい時代で主人公が味わってきた苦しみをもう少し描写しておくと、よりリアリティーが出る」と助言した。
すずきあさこさんの選奨作「ちび丸の背中」は、親から虐待を受けた経験を持つ高校生の物語を、SFの要素を織り交ぜながら描いた。宮本さんは「SFに挑むときはもっと度胸を持って、大うそをつくつもりで書くべき」とアドバイス。「夕暮れの風情やすれ違う人の息吹までもが表現されていた。ディテールが美しく書けていたので失敗しなかった」と評価した。
地元選考委員の林英子、八木光昭、吉田泉、加藤健司、近藤周吾、高瀬紀子の6氏も出席した。