一歩踏みだす。
それが一番しんどい。
転ぶかもしれない。方向違いなのかもしれない。
他の人の視線が気になる。足がすくむ。
やっぱり、どうかしている。
でも、みんな最初は誰でもなかった。
社会を動かすあの人も、世界で拍手を浴びるあの人も。
ただ不確かなものを信じた。
転んだら起き上がる。間違っていたらやり直す。
意地悪なやつなんて視界から消す。
窓を開ける。冷たい水を一気に飲み干す。
スニーカーの紐をきつく結ぶ。
それだけで、もう一歩踏み出している。

北日本新聞、「希望スイッチ」押します。3、2、1

北日本新聞社は次代を担う若者の皆さんを応援するキャンペーン「希望スイッチ」をスタートします。閉塞感が漂う不確実性の時代を切り開いていくためには若い力が欠かせません。2023年は4月にこども家庭庁が設置され、5月にはG7富山・金沢教育大臣会合が開催されました。こうしたタイミングをとらえ、キャンペーンでは、国内外で注目を集め、時代をけん引する若者たちへのインタビュー連載や、若者の背中を押すさまざまな事業を展開していきます。そして、活力ある地域づくりを目指します。

◎富山の若者意識アンケートはこちら。
https://viewer.webun.jp/books/viewer/app/P000005411/2023/02/22

自分が信じたものを貫く

ピアニスト
反田恭平(そりた・きょうへい)

ショパン国際ピアノコンクールで51年ぶりの日本人最高位タイの2位に入賞したピアニスト反田恭平さん(28)は、自身の演奏だけにとどまらない幅広い音楽活動で知られる。音楽の理想を熱く語れば、緻密な戦略も実行する。自身の考える音楽家のあるべき姿や、日本の音楽教育について明かし、クールな語り口で若者の背中を押した。(聞き手/田尻秀幸 撮影/鳥飼祥恵)

 

―ピアノの練習が嫌だと思ったことはありますか?

少年時代はサッカーやったり、友達とやんちゃしたり。椅子にじっと座っていられなかった。周りには1日8時間ピアノを練習する人もいました。小学生ですよ。理解できないですね。大好きなサッカーでも8時間は無理。
中学生になってもっと練習したけど、それでも1日3時間未満です。僕の家は住宅街にあったので、遅くまでは演奏できなかった。最初は午後8時まで、高校生になってやっと30分伸ばしてもらった。少ないと感じる人もいるかもしれませんが、その頃にはずっと長時間練習していた人が腱鞘炎になったり、スランプになったりしていた。だから、ただ練習すればいいという話ではない。いい音楽家になるには想像力も必要です。本を読んだり、映画を観たりも大切。自分がどんな音を出したいか、明確に頭の中で鳴らしてから練習する方が圧倒的にいいですからね。いい音楽のためには音楽以外の要素も視野に入れた方がいい

―そもそもいい音楽とは?

僕が第一に考えるのは「その言語でしゃべっている音楽なのか」ということ。ショパンはポーランドの音楽家ですが、その音楽を日本のアクセントやイントネーションのようなピアノで表現するとショパンでなくなる。ラフマニノフにせよ、バッハにせよ、彼らが生まれ育った時代や土地のにおいが感じられるような音楽を演奏するべきではないか。大抵の場合、「ここがいい」と思った部分はエゴの塊。目指すべきは右だと思ったら左だったみたいなことが、音楽にはあり得ます。そこを客観的に見てくれるのが指導者ですし、自分でも客観視できるようになれば自立した演奏家ということでしょう。

―反田さんは最近指揮者としての活動も盛んですね。

 

バレンボイムやチョン・ミョンフン、バーンスタイン、プレトニョフもピアノと指揮を両方やっているように、自分でもどのような形でバランスを取るのが良いか考えていきたいですね。指揮は小さい頃からずっとやりたかった。そのためにピアノをやってきたけど、ショパンコンクールでピアノが好きだと再確認できた。あそこでダメだったらピアノやめて、指揮か経営に本腰を入れていたかもしれない。今までは自分自身の評価だけでしかなく、半信半疑なところもありました。でも、2位という結果を出して、尊敬する音楽家たちに「君の音楽は正しい。周りに流されずに一生やっていくように」って言ってもらえて背中を押されました。