能登半島地震で被災して店舗を取り壊した富山県高岡市伏木湊町の「伏木食品」が、近くの倉庫に移転して営業を続けている。伏木地区には大型スーパーがないため、店は車を持っていない高齢者が食料品や日用品を購入できる貴重な場。代表の伏木一弘さん(78)は自身の年齢を考慮してあと何年続けられるか分からないとしつつ、「やれるだけ頑張りたい」と力を込める。
「ふしきや」の屋号で親しまれる伏木食品は、伏木さんの祖父が大正初期に創業した。3代目の伏木さんが継いだのは東京の短大を卒業した20歳のころ。妻の和美さん(72)と経営し、野菜や果物、飲料、日用品を幅広くそろえている。煮豆など自家製の総菜も人気だ。
店がある伏木湊町は液状化現象の被害が大きいエリア。元の木造2階建ての店舗兼住宅は発災時、床がひび割れて泥が吹き出た。病院や老人ホームに食品を配達しているため、被災直後も休まずに営業し、毛布とシートで床の割れ目を覆って店を使い続けた。
被害の大きさに一時は廃業することも頭をよぎったが、公費解体の制度を活用することで費用負担を抑えられることから「規模を縮小してでも、移転してやりたいと思った」と振り返る。地元企業の協力を得て金刀比羅(こんぴら)神社そばの倉庫を借りた。
冷蔵庫や食品棚を運び込み、昨年12月から倉庫で営業している。元の店舗兼住宅は今年1月下旬に解体。移転を機に小売りをやめて卸売りに専念することを検討したが、店を頼りにしているお年寄りが多く、続けることにした。「実際はやめられん。喜んでくれる人が多く、続けて良かった」と笑顔を見せる。
現在は伏木地区外の市営住宅で暮らしており、将来的には「曳山(ひきやま)や獅子舞がある生まれ育った伏木に戻りたい」と願っている。