社会の底辺に光

 10年以上北日本文学賞に応募し、初めて選奨に選ばれた。「最終候補作に残っただけでもうれしかったのに、受賞の知らせを聞いてびっくりした。天にも昇る気持ち」と声を弾ませる。

 作品の舞台は江戸時代末期。捨て子を育てて商店や侍屋敷に売ることをなりわいにする若い男が主人公で、子供や長屋で暮らす人との交流を丁寧に描いた。「社会の底辺で一生懸命生きる人に光を当てたかった」と創作の意図を語る。

 幼い頃から読書や作文が好きだった。小説の執筆を始めたのは40代半ば。かつて新聞記者だった父が亡くなり、遺品を整理したところ手書きの原稿が出てきた。一枚ずつ目を通すうちに「私も書かなければ」という使命感が湧き上がり、小説講座に通い始めた。

 田辺聖子さんや北原亞以子さんらの時代小説を好み、自身の作品も江戸末期から昭和初期を舞台にすることが多い。時代背景を調べる際は図書館を利用し、インターネットは使わないという。

 創作のポリシーは悪役を登場させないこと。物語を書き始めた頃からこの姿勢を貫いており「今回の受賞で自分が間違ってなかったと思えた」と話した。

◆プロフィル◆ つくし 本名・向井晴美。1947年大阪府生まれ。天下茶屋ドレスメーカー女学院(現大阪ファッションアート専門学校)卒。主婦。2008年第19回浦安文学賞奨励賞。

第59回北日本文学賞の入賞・選奨作品の紙面イメージはこちら