東京都江東区の「夢の島」は東京湾を埋め立てて造られた人工島で、高度経済成長期にはごみの島として有名だった。現在は緑あふれる公園に生まれ変わり、その一角に核兵器の恐ろしさを伝える「第五福竜丸展示館」がある。
第五福竜丸は、1954年に米国の水爆実験で被ばくした静岡県焼津市のマグロ漁船。東京水産大(現東京海洋大)の練習船として稼働した後に廃船処分となって、エンジンなど金目の物が売りさばかれ、船体は夢の島に打ち捨てられた。
保存運動の結果、76年に展示館が開館した。厳かな雰囲気が漂う館内中央に全長約30メートル、高さ約15メートルの木造船体が鎮座。船を取り囲むように、当時の新聞記事や入院中の乗組員に宛てられた手紙、世界各地の核被害の記録などを展示している。
瓶に保存された放射性降下物「死の灰」があった。船体から採取された実物といい、息をのむ。学芸員の市田真理さんは「東京ディズニーランド(千葉県浦安市)に近いことから、平和学習の一環として修学旅行のコースに組み込む学校が多い」と話す。
夢の島がごみの埋め立て地としての役目を終えると、東京都は清掃工場建設の見返りとして公園整備を進め、78年に約43万平方メートルの「夢の島公園」が開園した。潮風や乾燥に強いユーカリが植樹され、その葉は動物園のコアラの餌になったという。
体育館や陸上競技場などが順次完成し、88年に「夢の島熱帯植物館」がオープンした。同館は三つのドームが並んだような大温室が特徴。清掃工場でごみを焼却した余熱を利用して温度が一定に保たれ、熱帯・亜熱帯地域の植物が所狭しと植えられている。
天井まで届くような巨大なヤシが林立する大温室の中を歩いていると、結実したバナナやカカオを見つける。音を立てて流れる滝の裏側を通って、冒険気分を味わった。
【メモ】夢の島の最寄り駅は、JR京葉線、りんかい線、東京メトロ有楽町線の新木場駅。