※クマ出没や人身被害の多発を受けて、2019年10月の朝刊連載「実践 クマから身を守れ」を公開しました。記事中の人名、肩書き、日付、地名などは当時のものです。

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 県内でツキノワグマの出没が多発している。目撃や痕跡情報は9月が114件、10月は6日までに70件を超え、人身被害は3件発生した。山間部にとどまらず、平野部の住宅地でも目撃が相次ぐ。今年は餌となるドングリが不作で、今後も厳重な警戒が必要だ。クマから身を守るためには、どうすればいいのか。県内の実例に合わせて、専門家に実践的な対処法を聞いた。

【実例】早朝散歩中に遭遇した

 9月22日午前5時40分ごろ、富山市万願寺(大沢野)の市道で、近くの男性(83)が田畑の見回りを兼ねてウオーキング中、耕作放棄地の茂みから突然、クマが飛び出した。男性は驚いて転倒、骨盤を折る重傷を負ったものの、「コラー」と怒鳴るとクマは逃げた。

【対処法】白石 俊明さん(県立山カルデラ砂防博物館学芸員)

 農村部で早朝に散歩していてクマに出くわしたケースですね。クマの分布域はこの20年で確実に広がり、山の実りが悪い今年は、市街地にまで活動域が及んでいます。誰もが遭遇する危険があると意識するべきです。

 クマは本来は昼行性ですが、人間のエリアでは人を避けて夜に行動します。山から人里に出てきたり、戻ろうとしたりする時間が早朝と夕方なのです。いまの時季は「早起きは三文の得」とは言えません。ゆっくりと活動を始めてほしいですね。犬を連れて散歩するのも危険です。隠れているクマを見つけ、刺激してしまうからです。

 クマはのっそりしたイメージですが、陸上男子100メートル、200メートルなどの世界記録を持つウサイン・ボルトさんよりも速いと言われます。一瞬のダッシュ力は犬でもかないません。逃げるのは無理です。

 男性が大声を上げたら逃げたそうですが、クマによっては恐怖心から逆に襲ってくるかもしれず、正解と言い切れません。

 クマのいるような所には行かないことが肝心です。行く場合には、出没を想定した装備が必要です。ぜひ身に着けてほしいのは、リュックサックとヘルメット。クマに襲われたときは、地面に伏せて両腕を首の後ろに回す防御姿勢を取ります。首と頭、背中を守れば、致命傷は避けられます。

 私が野外活動を引率するときは、必ず「クマの準備体操」といって、最初に防御姿勢を練習してもらいます。地域や学校でもぜひやってもらいたいです。

 装備では、つえや登山用ストック、傘も間合いを取るのに役立ちます。振り下ろす動きはクマに見切られます。フェンシングのように突く方が、向こうは慣れていないので有効です。また、傘はクマに向けて広げてもいいですね。こちらの体を大きく見せることができるし、突進してきたときも盾となり、最初の一撃をかわせるからです。