※クマ出没や人身被害の多発を受けて、2019年10月の朝刊連載「実践 クマから身を守れ」を公開しました。記事中の人名、肩書き、日付、地名などは当時のものです。
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【実例】山中で遭遇 突進してきた
1日午後2時10分ごろ、黒部市宇奈月町中ノ口の愛本発電所付近で、鉄塔の管理に向かうため同僚と2人で山林内を歩いていた北陸電力の男性社員(25)が、クマに襲われた。背後の物音に気付き振り向くと、わずか10メートルほどの距離に迫っていた。とっさに逃げたものの、突進してきたクマに左腕をかまれた。
【対処法】栃山 正雄さん(立山町鳥獣被害対策実施隊長)
クマは本来、人を怖がって近づいて来ることはありません。数キロ先の蜂蜜のにおいをかぎ分けられるほど嗅覚が優れており、クマの方から人の気配に気付いて逃げていくのが普通です。今回のケースは、近くに子グマがいたのではないでしょうか。母グマは子グマを守るために必死なので、人に向かって突進したということは十分考えられます。
子連れのクマは大変危険です。母グマは人を素早く察知して草むらなどに身を隠しますが、子グマは好奇心が強く、人に寄ってくることがあります。子グマを見掛けたら急いでその場から離れてください。近くには必ず母グマがいます。
今年は生息域で餌のカキやクリ、ブドウの実りが悪いと聞きます。餌を確保するため、力の強い雄が縄張りを広げることで、弱い雄や子連れの雌が追い出されるのです。雄の子グマが成長すれば縄張りを争う敵となり、小さいうちに殺してしまう習性もあります。母グマは子グマを守り、餌を確保するため人里に現れていると考えられます。
私が狩り以外で山に入る場合は、爆竹で大きな音を鳴らしてから入山します。クマが音を警戒して姿を現さなくなるのです。山道では必ず複数で、ラジオや鈴を鳴らしながら歩きましょう。鈴の音は山の中でよく響くので、人間の存在を知らせるのに効果的です。一番の対策はクマに人間の存在を知らせて遭遇しないようにすることです。
実際に遭遇した場合も焦ってはいけません。例えば20~30メートルの距離があり、クマがこちらに気付いていない場合は、音を立てず、静かにその場を離れましょう。気付いている場合は、クマから目を離さずゆっくりと後ずさりしてください。急に動いて刺激するのはよくありません。クマの動きをよく観察し、横を向いた隙に急いで逃げます。はじめから背中を向けて逃げるのは危険です。イヌやネコと同様に逃げるものを追い掛ける習性があるので余計に追い掛けられます。
突進してきた場合は、なるべく太い木を盾にして隠れることをお勧めします。万一襲われたときは、致命傷を避けるために頭や首などを守ってください。大声を出すなど必死に抵抗すれば、クマの方から逃げてくれる可能性もあります。