※クマ出没や人身被害の多発を受けて、2019年10月の朝刊連載「実践 クマから身を守れ」を公開しました。記事中の人名、肩書き、日付、地名などは当時のものです。

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【実例】自宅近くに成獣

 9月29日午後1時45分ごろ、富山市楡原(細入)で住民が自宅納屋に寝そべる成獣1頭を見つけた。猟友会員らが対応を協議していると、クマは起き上がり姿を消した。10月3日夜には魚津市吉島の住宅の玄関で、住民が成獣とみられるクマ1頭を目撃した。窓越しとはいえ、距離はわずか1メートルだった。

【対処法】間宮寿頼さん(県自然博物園ねいの里係長)

 県内でクマが大量出没した年の人身被害は、冬眠前の10月に集中する傾向があります。今年は餌となるブナやミズナラなどが凶作で、特に注意が必要です。実際、食べ物を求めて普段は生息しない人里にも出没するケースが目立っています。寄せ付けないよう対策を取らなければなりません。

 山あいの地域では、目撃情報がなくても好物の柿の木にふんなどの痕跡が多く見つかっています。好物をなくすことが、住宅地での滞在時間を減らすことにつながります。クマは気に入った場所に繰り返しやって来る習性があるからです。最優先で取り組んでほしいのが、柿の木の枝打ちや伐採です。

 「木を切るのはもったいない」という方は、枝や実を落とすだけでも良いのです。作業後はクマが再び来ないよう、実を廃棄するなど適切に処理してください。

 クマが身を潜められないよう、庭のやぶや高い草木を刈ることも必要です。イノシシ対策で電気柵を持っている地域では山際に柵を並べ、通電させるのも効果的です。

 富山市楡原や魚津市吉島の事例のように、自宅敷地内にクマが入り込んだケースを考えると、納屋や玄関の戸締まりは欠かせません。

 上市町では2016年に住民が猫を呼び込もうと自宅の勝手口を開けた瞬間にクマに抱きつかれ、けがをしました。不審な物音がしても、必ず窓から外が安全かどうか確かめてから扉を開けるようにしましょう。

 近隣で目撃や痕跡発見の情報を耳にしたら、その日は不要不急の外出を控えるようにしてください。過去にクマが出没した地域は特に警戒が必要です。外出する際は車で移動し、外にいる時間を減らすよう心掛けましょう。早朝や夜間の散歩も避けてください。

 クマにも個性があり、万一遭遇した場合も環境によって行動が異なります。万全の装備をしていてもけがすることがあり、対処法に正解はありません。最悪の事態を防ぐためには、住民同士で情報を共有し、注意喚起し合うことが大切です。