立春も過ぎ、暦の上では春となりますが、山の世界では2月いっぱいは厳冬期とされます。街と比べると、山麓でもひと月、山の上ではふた月以上、春の訪れは遅く感じます。今回のコラムでは、槍・穂高連峰の玄関口でもある「上高地」のことを書きたいと思います。

 ▽梓川がつくり出す霧氷

 11月15日の閉山祭以降、4月中旬にバスが開通するまでのこの季節、上高地へは徒歩でしか行くことができません。当然、訪れる人も限られるため、その分、静かで自然な姿が楽しめます。なかでも上高地の冬の風物詩として、写真などでよく知られているのが「霧氷」です。よく冷えた朝、朝日を浴びて逆光に輝く光景はたいへん幻想的で、一度目にしたら忘れられません。

 この神秘的な霧氷はどうやってできるのでしょう。上高地は周りが山に囲まれた盆地地形のため、冷気がたまりやすく、気温はかなり低くなります。移動性高気圧にすっぽり覆われた無風快晴の朝は、ときにマイナス20度まで下がるほどです。一方、梓川は凍っていませんので、水温はもちろんプラスです。この温度差によって発生した水蒸気が周辺の木々の枝先で凍りつき、霧氷(樹霜)ができるのです。霧氷と樹霜は同じものです。

 霞沢岳からの伏流水が湧き出している「田代池」は、梓川本流と比べさらに水温が高く、大気との温度差がより大きくなるため、霧氷はもっとできやすくなります。条件がそろえば、厳冬期ではなくても、10月中頃から3月いっぱいは見られるチャンスがあります。

 ▽増えたニホンザル

 梓川の河原に広く分布するケショウヤナギは、「上高地だけの特産種」と言われることが多いですが、実際には北海道にもあり、本州では梓川と高瀬川流域などに隔離分布しています。

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