私たちの暮らしを支える電力や燃料などエネルギーの在り方が大きく変わろうとしている。政府の新たなエネルギー基本計画では再生可能エネルギーを将来の最大電源とし、原発も活用する方針が明記された。化石燃料から再生可能エネルギーへ。脱炭素の現在地と真価を、シリーズで追う。

 

 政府は、発電時に温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーを主力電源とする目標を掲げている。陸地が限られる島国の日本で、注目されているのが風車を海に造る洋上風力発電だ。

 政府関係者は「成長産業」と期待を寄せるが、将来的な人材不足が予想される。今年8月には、三菱商事がコスト増などを理由に秋田・千葉両県沖の発電所から撤退し、業界に衝撃が走った。洋上風力に吹く“逆風”は克服できるのか。(共同通信=石川恒太)

 ▽人材育成モデルに

 長崎市街地から船で約20分の距離にある伊王島。洋上風力発電施設の設置や運転、点検を担う人材を育てる国内最大の訓練施設で、インストラクターが高所での救助活動の手本を示していた。

 「反応ありません。救助に向かいます」。真剣な声が響く。

 伊王島の「洋上風力人材育成センター」は炭鉱の宿舎跡地を利用し、日本財団が約30億円を助成して昨年11月に開所した。高所作業や救助方法など海上の現場で必須となる全ての国際認証資格を取得したり、更新したりできる。

 同様の訓練施設は国内に約10カ所あるが、施設によって取得や更新が可能な資格はまちまちだ。このセンターのように全てをカバーする施設はないという。年間千人の育成を目指す。

 日本財団海洋事業部の野本圭介さんは強調する。

 「海事産業が盛んだった長崎で、洋上風力に関わる人材育成のモデルを作り上げていきたい」

 ▽風車はEEZにも

 洋上は陸より安定的に強い風が吹き、風車の大型化も見込めるという利点がある。さらに生活圏と距離があるため、騒音問題が起こりにくいとされる。水深約50メートルまでの海底に風車を固定する「着床式」と、沖合に浮かべる「浮体式」がある。

 今年2月に閣議決定したエネルギー基本計画は、再生可能エネルギーを主力電源と位置付けた。電源構成に占める割合を現在の2割程度から、2040年度に4~5割程度に拡大させる。洋上風力は2030年までに1千万キロワット、2040年までに3千万~4500万キロワット導入する目標を設定した。

 しかし、2024年末時点で、実績は計約25万キロワットにとどまっている。

残り1197文字(全文:2216文字)