富山県水墨美術館で開催中の企画展「どうぶつ百景-江戸東京博物館コレクションより」は、「江戸のメディア王」と呼ばれる蔦屋(つたや)重三郎(1750~97年)が出版した本を展示している。吉原の遊女を描いた豪華絵本と、蔦重に才能を見いだされた浮世絵師の喜多川歌麿(1753~1806年)による狂歌絵本だ。これらはNHK大河ドラマ「べらぼう」にも登場しており、来場者の注目を集めている。

 どうぶつ百景展は、動物が題材となった江戸時代以降の浮世絵や工芸品を、前後期で計約230件紹介している。

 蔦重こと蔦屋重三郎は、遊郭で知られる吉原で生まれ育った。後に書店「耕書堂」を開き、書籍の編集・出版業を展開。時代を読む力や企画力にたけ、狂歌絵本や戯作本など多数の書籍をヒットさせた。書店「TSUTAYA」の店名の由来になっている。

 蔦重はプロデュースする本の中で、若い浮世絵師や狂歌師、戯作者を積極的に起用し、世に送り出した。その1人が喜多川歌麿だ。蔦重の下で才能を開花させ、美人画や動植物を繊細に写した傑作を残した。

 どうぶつ百景展で展示している狂歌絵本「画本虫撰(えほんむしえらみ)」は、歌麿の描いた虫の絵と、その虫にちなんだ恋の狂歌を組み合わせ、豪華な装丁を施したものだ。絵は15枚あり、カエルやカゲロウ、バッタなどの生き物と草花を生き生きと表現。歌麿の優れた観察眼と、驚異的な写実力を味わうことができる。7日に放送された「べらぼう」では、蔦重がこの本を世に出そうと奔走する場面が描かれた。

 東京国立博物館で今春開かれた特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」を担当し、「べらぼう」の近世美術史考証を担う同博物館の松嶋雅人学芸企画部長(59)は「画本虫撰」について、「歌麿の真骨頂は対象を見たままに写すことのできる写実力の高さ。その歌麿が描く虫たちの絵が売り物になると読んで出版する、蔦重の目の付け所の確かさを示す本」と説明する。

 吉原との関わりが深い蔦重は、遊郭を訪れる狂歌師や絵師らと人脈を築き、吉原を取り上げた書籍を幾つも出版した。

 絵本「青楼美人合姿鏡(せいろうびじんあわせすがたかがみ)」もその一つ。絵師の北尾重政(1739~1820年)と勝川春章(1726~92年)が遊女の日常を描いたもので、お座敷に出ていない時の女性たちを捉えた点が新しかった。どうぶつ百景展では現在、遊女がウグイスの世話をする場面を展示。前期は金魚に餌をやる様子を描いたページを紹介した。

 「吉原で生まれ育った強みを生かし、遊女たちの日常を余すところなく、当時の人気絵師と華やかな色彩で制作した」と松嶋さん。また、この本は妓楼(ぎろう)の主人や遊女が出版費用を負担したとみられ「入銀(にゅうぎん)(出資を募って製作する本)というビジネスモデルを構築し、商才を発揮した」とも考える。

 松嶋さんによると、江戸文化の発展や出版史における蔦重の功績は大きい。「それまで限られた人にだけ共有されていた情報が、この時代に一気に爆発・拡散し、日本人の教養や文芸のリテラシーが高まった」。同展では蔦重がプロデュースした本を通じて、江戸の出版文化や、蔦重の才覚の一端にも触れることができる。

飼育員が13日にギャラリートーク

 「どうぶつ百景-江戸東京博物館コレクションより」を開催中の県水墨美術館は13日午後2時から、富山市ファミリーパーク動物課主幹で飼育員の岸原剛さんによるギャラリートークを行う。

 同展は21日まで。開館時間は午前9時半~午後6時(入室は午後5時半まで)。16日は休館。県水墨美術館と北日本新聞社でつくる実行委員会、県など主催。問い合わせは同館、電話076(431)3719。