フジテレビを揺るがせた「性暴力」問題が明るみに出て、1年余りが過ぎた。フジテレビが進めてきた改革・再生への取り組みの一つが、視聴者の声を聞き、社会課題の解決を目指す調査報道プロジェクト「スポットライト」だ。2025年9月から、夕方のニュースで特集を放送するとともに、インターネットでも動画や記事を配信している。どんなプロジェクトなのか。(共同通信=原真)

 ▽社会に役立つ報道機関に

 「在日外交官の駐車違反が相次ぎ、外務省が警告しても違反金を支払わない」

 「クルミやカシューナッツなど、ナッツ類でアレルギーを起こす人が急増している」

 「国内最大級の風俗スカウトのグループに、警察の捜査情報が漏洩した疑いがある」

 「税金を使わないはずのスポーツ大会に、補正予算136億円投入のカラクリ」

 スポットライトで報じた事例だ。

 フジテレビ報道局に、スポットライトを担当する調査報道統括チームが設置されたのは、2025年7月。社会部長からチームの責任者に転じた勝又隆幸さん(53)が、こう説明する。

 「一連の問題があって、フジテレビは一から出直す。社会の役に立つ報道機関にならなければならない。そのために調査報道をやろう、ということになりました」

 チームのメンバーは、勝又さんのほか、デスクの知野雄介さん(45)、記者の松岡紳顕さん(34)と阿部桃子さん(31)。ただし、スポットライトには4人以外の記者やディレクターも参加している。チームを軸に、報道局全体で、社会課題を解決する調査報道を推進していく方針だ。CM収入が落ち込み、制作費も減る中、「選択と集中」で調査報道に重点投資するという。

 スタート前に、4人で、そして報道局の各部署の同僚たちと、議論を重ねた。勝又さんは語る。「フジの問題が起きる前から、マスメディアはネットに相対化され、本当のことを伝えていないんじゃないかと疑いの目を向けられていた。テレビ報道は何を期待されていて、何をするべきなのか、考え直す必要があると思いました」

 市民へのアンケートや、20代の若者からのヒアリングも行った。その結果、視聴者は意外なほど、硬派な報道を求めていると感じた。「一次情報を取材可能なテレビ局にしか、できないことがある」といった指摘も届き、チームは意を強くする。

 ▽視聴者の依頼で取材

 スポットライトの方向性を検討するうちに、勝又さんは思い至った。

 「何を報道するのかを自分たちで決めているのが、テレビや新聞の悪いところなんじゃないか。視聴者は何を知りたいのか、どこに疑問を持っているのか。それを聞いて、取材することができないか」

 既に西日本新聞(福岡市)は2018年から、「あなたの特命取材班」を設けて、読者の調査依頼に基づき記者が取材・報道するプロジェクトを実践していた。「ジャーナリズム・オン・デマンド」とも呼ばれる同様の取り組みは、全国の新聞社や放送局に広がっている。勝又さんらは西日本新聞に教えを乞うた上で、ホームページやLINEを通じ、調査依頼や情報提供を募り始めた。

 毎日、数本は応募がある。「自転車の歩道走行は取り締まりの対象になるのか」「ふるさと納税の返礼品が自治体の都合でキャンセルされたのに、全額返金されないのはおかしい」…。全てに返信し、これはという情報については、記者が取材し記事にしている。

 報道のスタイルも刷新した。スポットライトは原則として、夕方の「Live News イット!」で週1本オンエアする。VTRには記者が登場し、顔を売るとともに、責任を負う姿勢を示す。また、動画をユーチューブで公開して、内容をまとめた記事をホームページに掲載する。さらに、取材した記者が対談形式でニュースを解説する動画も公開している。

 デスクの知野さんは、外交官ナンバーの車の横暴ぶりを取材し続けてきた(駐車違反金の踏み倒しが多いなどと報じられたロシアは2025年12月、知野さんの入国を禁止し、フジテレビは「報道への不当な圧力だ」と反発している)。外務省の文書を基にした最新の約11分の動画は、100万回近く視聴された。

 テレビ離れが進む中、ネットで動画や記事を見てくれる人が増えると、新たな広告収入を得られる。勝又さんは「お金を稼ぐことができれば、持続可能になる。テレビの報道はこれまで公共サービスのように捉えられていたが、調査報道のコンテンツは宝の山のような気もする。有料の(フジテレビの動画配信サービス)FODや、ネットフリックスに売っていくことも考えたい」と話す。特集を番組に育てたり、映画化したりすることも視野に入れる。

記者会見で社長に質問

 勝又さんは社会部で長く事件を取材し、ロンドン特派員も務めたベテラン記者だ。1999年、患者が消毒液を点滴されて死亡した東京都立広尾病院の医療過誤事件をスクープしたことで知られる。それだけに、自社の不祥事には、「不正を追及してきた記者として、申し訳ないと思いました」と振り返る。

 2025年1月、10時間に及んだフジテレビの記者会見に自ら出席し、「情報を隠蔽したのではないか」と社長にただして、注目を集めた。

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