午前3時5分、秘書官との打ち合わせ―。共同通信が11月7日に配信した高市早苗首相の「首相動静」は、異例の未明スタートとなった。首相として初めてとなる衆院予算委員会に備えるためだったが、多くの職員も出勤せざるを得なくなり、批判を浴びた。

 「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」との言葉通り、ほぼ会食せず、自宅にこもって勉強漬けの日々を送る高市首相。政策だけでなく、仕事に向き合う姿勢や生活面で貫く独自のスタイルまで賛否両論を巻き起こしてしまうのが、高市首相の特徴と言えるかもしれない。近年の首相との比較を交えながら、首相就任から2カ月が経過した高市首相の「働き方」や「生活」を振り返った。(共同通信=伊藤綜一郎)

 ▽荷造りどころか

 「女性の場合、洋服やアクセサリーなどいろいろなものをセットした上で引っ越す。今は荷造りの暇どころか、睡眠時間もほとんど取れていない状況だ」。11月7日の衆院予算委員会。東京・赤坂の衆院議員宿舎に住む高市首相は、官邸と隣接する公邸への引っ越しの意向を問われて答えた。別の日には「睡眠時間は大体2時間。長くて4時間だ。お肌にも悪いと思っている」とユーモアを交えつつ実情を打ち明けた。

 首相は危機管理上、公邸に住むのが望ましいとの意見は根強い。故安倍晋三元首相は一貫して東京・富ケ谷の私邸を拠点とし、菅義偉元首相も衆院議員宿舎から官邸に通い続けた事例はあるが、最近は公邸に引っ越す流れが続いている。

 岸田文雄元首相と石破茂前首相はいずれも就任当初、議員宿舎から官邸に通っていたものの、しばらくして公邸に引っ越した。周辺によると、高市首相も仕事納めの後に公邸へ入居する予定だ。

 ▽ワークライフバランスに変化も

 荷造りや睡眠の時間を削ってまで取り組んでいたのが、国会審議や首脳外交に向けた勉強だ。午前3時台から秘書官らとの勉強会が批判された後は、議員宿舎で資料を読み込み、必要に応じて電話でやりとりする方式を取ることが多くなった。首相周辺によると「答弁は官僚任せにせず、首相自ら資料にペンを入れる」のが高市首相のこだわりだ。そんな高市首相には周囲から「働き過ぎだ」との声も出る。

 10月4日。自民党総裁に選出された際には「全員に馬車馬のように働いてもらう。私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます」と発言し、長時間労働を助長しかねないとして物議を醸した。続けて述べた「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」は、「女性首相」とともに2025年の新語・流行語大賞の年間大賞に選出された。

 12月1日に東京都内で開かれた表彰式では「賛否両論いただいた」と複雑な笑みを浮かべつつも「『働く』という言葉にスポットライトを当てていただいたことに心より感謝申し上げる」と語った。高市首相にとって「働く」ことは、特別な意味合いを持つのかもしれない。

 就任から時間が経過し、少し変化もある。まれにではあるものの、午前中に官邸での日程が入っていない場合などは早くから出勤することはせず、午前の遅い時間や昼ごろに議員宿舎を出るケースがある。周囲の声も受け入れながら、働き方全体を柔軟に運用しようとする姿勢も見える。

 ▽官邸や宿舎外での会食は2カ月でわずか1回

 宿舎で勉強漬けの時間を確保するため、高市首相は午後6~7時台には官邸を出て、直帰するのがお決まりのパターンだ。就任後2カ月に限ると、官邸や宿舎外での本格的な会食は1度だけ。12月5日夜、自民党の麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長ら党幹部と東京都内のホテルで顔を合わせたのが、唯一の会食だった。今後の政権運営や国会対応などについて意見交換したとみられるが、党所属議員らとのコミュニケーション不足を懸念する声は強い。18日夜には党関係の二つの会合を回ってあいさつしたものの、いずれも15分ほどで会場を去った。

 会食に行く、行かないはもちろん個人の自由だ。

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