10月26日に投開票された宮城県知事選は、2025年に実施された各種選挙の中でも交流サイト(SNS)でのデマや中傷が目立った。村井嘉浩知事が6選を果たしたものの、参政党と連携した元自民党参院議員・和田政宗氏に約1万6千票差まで迫られる薄氷の勝利。X(旧ツイッター)では公約に掲げていない「メガソーラー大歓迎!!」「宮城県をザンビアのホームタウンに」といった内容を含む「悪行14選」を掲載した画像が拡散し、村井氏や支援者が「売国奴」などとののしられた。村井氏は選挙後の記者会見で、こう振り返っている。
「明らかに間違っていることがどんどん拡散している。ちゃんとした事実を伝えても、なかなか世に広まっていかない」
中傷やデマはなぜ広がったのだろうか。Xのデータを解析すると、村井氏を巡るポスト(投稿)に7月から異変が起きていたことが分かった。(共同通信・宮城県知事選取材班)
▽「土葬」「水道」「メガソーラー」
分析に入る前に、村井氏へのネガティブキャンペーンで展開された主張を整理していこう。選挙中は「悪行14選」などと多くの「批判」がまとめてばらまかれるケースが散見されたが、元をたどれば以前から拡散されていた3テーマに集約できる。「土葬」「水道」「メガソーラー」だ。
「土葬」は村井氏が一時、宮城県内にイスラム教徒向け土葬墓地の設置を検討したことを巡る批判だ。県に外国人材を受け入れる方針と連動させたもので、国内での外国人増加を嫌う層が「移民推進だ」と反発した。村井氏は知事選告示が3週間後に迫った9月18日の県議会で白紙撤回した。
「水道」も同様に外国がらみ。宮城県が2022年、上下水道の一部の管理運営権を10社が出資する民間法人に売却したことを巡り、外資系企業も含まれていたため保守層を中心に批判が巻き起こった。批判の急先鋒だった政治家が参政党の神谷宗幣代表だ。
「メガソーラー」は、仙台市太白区で民間業者が検討しているとされる設置計画と絡めて、村井氏が建設を推進しているとの情報がXで拡散された。ただ、これは事実誤認で、村井氏本人は9月3日の記者会見で「大反対」と断言している。
▽きっかけは7月の対立
ここからは、Xデータを通して村井氏に対する「落選運動」の詳細を見ていく。この記事のために行った調査は、いずれもNTTデータのSNS分析ツール「なずきのおと」を利用した。期間と条件を定めてポストを抽出した上で、1日当たり最大1万件を対象に、頻出する語句やハッシュタグを上位100位まで割り出した。
上述の3テーマの広がりと併せて「そもそも、なぜ落選運動が盛り上がったのか」を理解する手がかりを得るため、5月1日~10月26日の村井知事に言及した日本語ポストを調べた。投稿は計118万件だった。
日ごとに見ると、5月1日~7月14日の1日平均は230件程度だった。流れが変わったのは7月15日。1900件を超えて最多を更新すると、翌16日は1万9千件、17日は3万1千件に達した。
きっかけは、参政の神谷代表が街頭演説で宮城県の水道事業を批判した7月13日以降、村井氏との間に起きた応酬にありそうだ。同日、党公認候補の応援で仙台市を訪れた神谷氏は、街頭演説で「宮城県は水道を外資に売った」との主張を展開した。この演説内容が事実と異なるとして、県は15日に文書で参政党に抗議し、謝罪と撤回も要求。16日には村井氏が記者団に「表現の自由の域を超え、許されない」「もっとしっかり勉強なさった方がよい」と神谷氏を批判した。「日本人ファースト」を掲げ、参院選の台風の目となっていた参政党を批判する発信が関心を集め、ポスト数が伸びたのだろう。頻出語句を見ると「参政党」「神谷」「水道」「外資」などが見られる。
Xでは「土葬」「イスラム」なども多用された。土葬批判は調査期間の序盤から、ほそぼそと投稿されていたが、参政との対立で村井氏の注目度が高まり一気に拡散したとみられる。ハッシュタグ頻出上位には「#売国知事」が登場した。
神谷氏は水道を巡る発言に対する県の撤回要求に応じず、知事選を約1カ月後に控えた9月には「選挙で白黒つける」と村井氏との対決姿勢を明確にした。候補者として白羽の矢を立てたのが、参院選で落選し、外国人政策など保守的な主義主張で共通点が多かった元自民党参院議員の和田氏だった。
こうした村井氏と参政の「対立」に関係する出来事が起こるたびに村井氏へ言及したポスト数は急増し、批判に使われる語句が頻出した。
▽移民推進批判が広めた「メガソーラー」のデマ
村井氏に対する落選運動のネタになった3テーマの中でもメガソーラーは広がり方が異なる。7月15日~17日の頻出ワードに「メガソーラー」は入っていない。
そこで、メガソーラーと村井氏に言及した6月1日~10月26日のポストを解析してみた。グラフの通り、8月30日の投稿数が1万3千件超で突出している。何があったのだろう。