ユーチューバーとして幅広い世代に人気のポップピアニスト、ハラミちゃんが19都市を回る全国ツアーの最終公演を東京国際フォーラムのホールA(東京都千代田区)で開催し、約5千人の観客から熱い拍手と声援を浴びた。
ファンからのリクエストをもとに選んだ全世代が楽しめる楽曲を、ハラミちゃんが「名曲配達人」となって届けるというコンセプトのツアー。最終日は荒井由実の「ルージュの伝言」で幕を開けた。SMAPの「SHAKE」やVaundyの「怪獣の花唄」など新旧の楽曲を取り混ぜた演目に拍手が広がる。
スタインウェイのグランドピアノをはねるように弾きながら、こぼれんばかりの笑顔を客席に向けるハラミちゃん。ピアノの傍らには、ファンからのリクエストが届く赤いポストも設置されている。夫を病気で亡くしたという60代の女性から届いた手紙を読み上げると、感極まった面持ちでリクエストされたMISIAの「アイノカタチ」を弾いた。
公演前に取材に応じたハラミちゃんは「皆さんの人生を感じるお手紙が5千通以上届いて、受け止めるのにすごく時間がかかった。音楽がこんなに人を救っているんだと感じながら演奏するコンサートは初めてで、すごく手応えを感じています」と語った。
印象に残っていると明かしたのは、両親が好きだからとMr.Childrenの「Tomorrow never knows」をリクエストした小学生の男の子からの手紙。「お子さま世代が昭和や平成の曲を知っていて『母が好きなので弾いてください』とか『おじいちゃんの好きな曲なので』ってリクエストしてくれる。それはすごく“愛”だなって思った」
この日はユーチューブでコラボ経験もある歌手の夏川りみがサプライズ登場。2人で「涙(なだ)そうそう」を演奏すると、夏川の温かく澄んだ歌声にハラミちゃんも感動した様子で、声を震わせて喜んだ。
終盤には、ツアーのために書き下ろした新曲「虹」をバンドバージョンで初披露。映画やアニメの名曲メドレーを挟み、MCでファンとの掛け合いもたっぷりと楽しみながら、公演時間は約3時間と予定時間を大幅にオーバーする盛り上がりに。アンコールでは深々と客席に頭を下げ、目に涙を浮かべた。
「自分で自分が認められない時も、皆さんがハラミを認めてくれるからツアーをやりきることができました。音楽って薬のようだな。皆さんの傷口を治す力があって、いろんな力が宿っている」
2019年に会社員からユーチューバーに転身した。即興などの特技を生かして各地のストリートピアノで演奏し、動画発信を続けてきた。彼女の存在に触発されたように、動画で活躍するピアニストの数が増え、音楽界は活況を呈している。
ピアニストというと、権威のあるコンクールで結果を残してからコンサートを開いたり、CDを出したりするのが一般的なキャリア。「令和になってSNSで先にファンができて、それからコンサートをやっていくというパターンのピアニストが、私をはじめとして増えてきた」。自身が新しい道を切り開いたという自負はある。
「ピアノは指を鍵盤に落とせば音は鳴る。本当はもっともっと親しまれるべき楽器だと思っていて、でもみんな自分は弾けないと思ってしまう」。そんなイメージを変えてきたのがハラミちゃんだ。
「もっともっとピアノに触れる人が増えたらいいなという思いでやってますし、私もその輪にずっと居続けたい。自分ももっともっと頑張ってピアノを楽しむ人を増やしたい」
来年1月には自身初の海外公演というパリでのコンサートを控えている。「自分でもワクワクする挑戦」と高揚する一方で「忘れてはいけないのはハラミを応援してくださる日本のファンの方」とも強調する。
来年4月からは、自身2回目となる47都道府県を巡るツアー「旅するピアノと47の出会い」を開催する。「親しみやすい、すごく身近なピアニストがいるよ!ということを証明するためにも、47都道府県ツアーで、一人一人のお顔が見えるようなコンサートにしたい」
(取材・文 共同通信=森原龍介)
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「クレッシェンド!」は、若手実力派ピアニストが次々と登場して活気づく日本のクラシック音楽界を中心に、ピアノの魅力を伝える共同通信の特集企画です。