東京都立川市の小学校に男2人が現れたのは、今年5月8日の午前10時55分ごろだった。学校は授業中。多くの児童が教室内にいた。

 裁判資料などによると、正門にはインターホンが設置されていたが、2人は来校の用件を伝えずに土足で校内に入り、2階の教室に向かった。

 教室に入った男が児童の前で焼酎の瓶をたたきつけて割った。別の男が「おまえか」などと教員に近づいて顔面を殴る。別の教員にも暴行を加え、職員室ドアの窓ガラスを壊した。児童らは各教室でバリケードを築き避難した。

 2人は刺股で応戦した教職員らに取り押さえられ、駆けつけた警官に現行犯逮捕された。(共同通信=江森林太郎)

 ▽早朝から酒を飲み、学校へ

 事件の背景には児童間のトラブルがあった。このトラブルを巡り、片方の児童の母親が知人の男に相談し、事件直前には、学校側の対応や相手児童への不満を伝えた。

 知人の男らは事件当日、午前5時から酒を飲み、相談を持ちかけられていた母親に連絡。学校名や担任教諭の名前を聞き出して学校に向かったという。

 ▽暴言や脅迫、2割が経験

 犯罪まで発展しなくても、学校に必要以上に強い態度を示し、過剰な要求をする人たちの存在は、全国の教員にとって悩みの種だ。相手は保護者に限らず、親族や学校の周辺住民のケースも存在する。ある現役教員はため息交じりにこう明かす。「保護者らからの理不尽な言動に直面する場面は決して少なくはない」

 保護者らの強い態度で教員が心身に不調を来し、退職に追い込まれる事例は各地で相次ぐ。自治体によっては、理不尽な要求を「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と捉える動きもある。

 東京都教育委員会は、保護者対応の実態を把握するため、都内の公立学校教職員を対象としたアンケートを実施した。

 その結果、回答者の22%が保護者らから長時間拘束や暴言、脅迫などを受けた経験があるとした。影響を尋ねると、最も多かったのは時間外労働の増加だった。さらに、仕事の意欲低下、心身の不調が続いた。

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