岐阜県飛騨市ののどかな山間部で2022年8月、古民家が全焼した。人は住んでおらず、当初、漏電などによる電気火災の可能性が高いとみられた。被害に対しては、火災共済金などとして7000万円超が支払われたという。

 だが、火災の後始末に関わった業者には、気になる点があった。それは、家の購入者らの様子から感じられた。業者は振り返る。「(彼らは)警察の調査結果や、消防の見解を気にしていた」

 古民家の購入額は約200万円。それに比べて、受け取ったとされる共済金は異様に高額にみえる。不可解なことが多い火災から浮かび上がってきたのは、元保険調査員による「錬金術」の可能性だ。(共同通信=黒崎寛子、樋口華)

 ▽「古い物件を探している」

 飛騨市中心部から峠を越えると里山風景が広がる。その一画にある住宅に挟まれた敷地に、黒く焦げたバスタブや炭化した物が無造作に放置され、異様な雰囲気が漂う。ここで2022年8月4日未明、木造2階建ての古民家は激しく燃えた。

 火災からさかのぼること7カ月。2022年の1月ごろ、50代の男が「古い物件を探している」と地元の不動産屋を訪れ、5月には別の男性と一緒に再び不動産屋にやって来た。そして、古民家を約200万円で購入。同じ日に地元の農業協同組合(JA)で、火災の建物損害を補償する6千万円の共済契約を結び、約1カ月後には動産についても500万円の共済契約をしたという。

 男はその後、8月4日終了予定で4日間のリフォームを地元業者に依頼。火災が起きたのは、工事の終了予定日のことだった。

 補償契約を結んでいたJAからは10月上旬、共済金に加え、見舞金など約800万円も支払われ、総額は計約7317万円に上ったとされる。

 ▽業者に責任なすりつけ、気にした警察の捜査

 「あなたがもしブレーカーを下ろし、しっかりと危機管理をしていればこんな事にならなかったのではないか」。2023年1月、リフォームを請け負っていた地元業者にこんなメッセージが届いた。

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