「一緒にホテルへ行こう」「胸とお尻はいい」。2022年末、新人だった高校教師の横山香奈さん(仮名、20代)は飲み会の場で、親子ほど年の離れた50代の校長からセクハラを受けた。校長は「お酒に負けてしまった」と釈明し、減給の懲戒処分を受けたが、学校側は処分を公表しなかった。
それまで横山さんは、教育や部活指導に力を入れ、実績も残してきたつもりだった。だが「結局、女って性的な部分でしか評価されないのか」と、裏切られた思いだった。
一方、事態を知った上司や同僚たちは「外部には言わない方がいい」「まだ嫁入り前の娘だから」と、大ごとにしないよう横山さんを説得した。当初、「自分の身を心配してくれているんだ」と考えた横山さんは、学校法人への通報を済ませた後、約2年間、沈黙してきた。しかしいつまでたってもセクハラの事実は公表されず、校長の処遇も変わらないままだった。(共同通信=武田惇志)
▽校長主催の飲み会で
問題が起きたのは私立大阪夕陽丘学園高校(大阪市天王寺区)だ。ホームページによると、運営する学校法人「大阪夕陽丘学園」は1939年、大丸(現、大丸松坂屋百貨店)の社長(当時)により創設された。高校と短大を経営し、「愛と真実」を建学の精神とする。高校は、生徒が中心となって教員らと対話を重ね、校則を見直す「ルールメイキング活動」でも知られる。
横山さんは2022年春に大学を卒業し、高校の体育教師になった。3年契約の非正規雇用だったが、ダンス部の顧問としても力を入れる日々を過ごしていた。
問題が起きたのは、2022年12月17日の土曜日に開かれた校長主催の飲み会だった。関係者によると、校長の派閥のための飲み会で、横山さんはそれまでにも3度、誘われて出席していた。
校長は別の学校で女子ハンドボール部の監督としてインターハイ優勝の実績がある。また、「ブラック校則」問題に関連し、生徒の自律性を信じるリベラルな校長としてメディアに好意的に報じられたこともあった。
横山さんは言う。
「校長と親しい男性教員から、日付が指定されて飲み会が案内されました。私は参加には乗り気ではなかったのですが、校長主催ということもあって、行かないと何か言われるかもしれないと思い、行っていました」
参加した計8人の教員らは、いつものように大阪・梅田で飲み会を開き、2次会に突入。場所は毎度恒例で、校長が好きなダーツができるスポーツバーだった。横山さんは、一部始終をこう説明する。
▽「セクハラオンパレードでした」
「2軒目に着くと、『横山は俺の隣や』と言われ、校長の隣に座らされました。私の手を握りながら『横山先生のこと大好きだけど、(正規で)採るならあの先生や』と、同期の女性の名前を出して人事の話をされました。
それから『横山先生が彼女になるんなら(話が)変わってくる。このあと一緒にホテルへ行くんなら』と言われたので、『行かないです』と答えたら『俺の輪から離れようとしてる』と脇腹を殴られました」
横山さんはトイレへ逃げたが、参加していた別の女性教員から「校長の隣空けるのはやばいから戻って」と席へ戻るよう促された。
「席に戻っても、向かいに座っていた他の男の先生たちが助けてくれるようなこともなく、また校長に手を引っ張られて隣に座らされました。それから腰に手を回され続け、胸を触られることもありました」
同席した教員は誰ひとり、校長の振る舞いをとがめることはなかったという。飲み会が終わると、男性教員が酔っ払った校長を抱えるようにして解散した。
横山さんはその夜、親しい同僚にLINE(ライン)を送り、飲み会の様子をこう伝えている。
「今日の校長の飲みセクハラオンパレードでした」