高校野球では珍しい光景だった。2024年7月9日、青森市営野球場(ダイシンベースボールスタジアム)。夏の高校野球・青森県大会の開会式で選手たちの入場行進が始まった。各校ごとに、ユニフォーム姿で2列縦隊となって整然とグラウンドに入ってくる。「イチ!ニッ!サンシーッ!」。表情を引き締め、手足をきびきびと動かす球児たち。

 その中で、1校だけ様子が違った。帽子を取り、スタンドに向かって笑顔で手を振りながら歩く。まるでオリンピックの選手入場のように。先頭のプラカードには「聖愛」と書かれていた。弘前学院聖愛高校だ。この行動は反響を呼び、疑問視する声も上がった。ただ、選手を含め学校関係者は「やって良かった」と話す。実は、その1年以上前から選手同士で話し合っていたという。(共同通信=岩井惇)

「軍隊式はうちに合わない」

 選手の入場行進は、甲子園歴史館によると、夏の選手権大会では1917年第3回大会に始まった。オリンピックや、同年5月に東京で開催されたアジア地区のスポーツ大会「極東選手権競技大会」の開会式がヒントになったという。軍楽隊によるマーチでの行進や、整列を取り入れた。そのせいか、現在も軍隊を連想させるような行進になっている。

 一方、聖愛はホームページによると1886年創立。野球部の原田一範監督は校風をこう説明する。

 「聖愛はキリスト教を理念とする学校で、平和教育に力を入れています」

 修学旅行では訪れるのは原爆ドーム。戦争経験者ら、語り部から話を聞く機会もある。だからこそ「従来の軍隊式の行進は、うちには合わないと思っていました」(原田監督)。

 選手たちも同じことを考えていた。元主将の貴田光将さんが振り返る。

 「過去にそういうことがあったと自分たちがもっと知って、未来の人たちに伝えていかなきゃいけないなと思いました」

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